『ザ・テキサス・レンジャーズ』 ボニーとクライドを殺した男
ネットフリックス・オリジナル映画『ザ・テキサス・レンジャーズ(原題:The Highwaymen)』は、1930年代のアメリカで銀行強盗を繰り返し「義賊」めいた人気者になったボニーとクライドを、射殺したテキサス・レンジャーズの側から描いたもの。2人を主人公にした『俺たちに明日はない』は1970年代アメリカ・ニューシネマを代表する映画だったけど、『ザ・テキサス・レンジャーズ』は対照的に地道な作風で、2人を追うレンジャーズの追跡を事実に基づいて冷静に描いていく。原題のThe Highwaymen(man)は路上の追いはぎの意味で、車を駆ってテキサス各地に神出鬼没に出現したボニーとクライドをそう呼んだのだろう。
ついでに言えばテキサス・レンジャーズは1823年に設立されたテキサス州の警察・司法権を持った組織で、開拓時代からカウボーイのような格好で治安維持に当たっていた。が、20世紀に入って大恐慌時代に縮小され、女性州知事ミリアム・ファーガソンが1933年に廃止した。映画は、その数年後から始まる。
ボニーとクライドが銀行を荒らし回り、警官を殺し、彼らを追うハイウェイ・パトロールは翻弄されている。業を煮やした知事ファーガソン(キャシー・ベイツ)は解散したテキサス・レンジャーズの伝説的なレンジャー、フランク・ハマー(ケヴィン・コスナー)をいやいやながら呼び出して捜査に当たらせる。相棒は、かつてハマーの下で働いたアル中のゴールト(ウディ・ハレルソン)。
彼らは馬から車に乗りかえ、「鞍はこんな固くなかった。ケツが痛い」とぼやきながら車に寝泊まりしてボニーとクライドの足跡を追う。老いぼれ2人のやりとりは典型的なバディー・ムービーの設定とはいえ、にやりとさせる会話もなく、どこか悲しい。ハマーはかつて警告なしで数十人の違法労働者を殺した非情な捜査官だが、ゴールトはそんなハマーについていけない。そんなハマーの伝説を語るゴールトは、ハマーへの畏怖をもっているが、半面、自分の弱さを隠そうとしない。そんなゴールトの弱さを、ハマーは仕方のない相棒といった目で眺めている。
2人は地図を片手にボニーとクライドの故郷の町や州外の仲間の故郷を回り、彼らに遭遇しようとする。平坦なテキサスの田舎道が延々と映しだされる。2人の行く先々には、家を失って路上やキャンプで生活する大恐慌時代の人びとの姿がある。流行の30年代ファッションを身につけたボニーとクライドも、もとはといえば食えなくて盗みを働いたことから悪事に手をそめた。
この映画で、ボニーとクライドが出てくるシーンは背後から、あるいはフルショットで撮影されていて、殺されるラストシーン以外ほとんど顔がアップで映らない。ハマーとゴールトにとって彼らは「義賊」なんかでなく、ハマーが殺した違法労働者と同じ名無しにすぎない。ボニーとクライドの顔が映らないことは、そのことを象徴しているだろう。『俺たちに明日はない』はロードムービーの傑作と言われるけれど、そしてこの映画にもそこここに道は出てくるんだけど、この映画には無軌道な若者の人生とそこへの共感があるのでなく、淡々と義務を遂行した老いぼれ2人が走らせる車の砂ぼこりが舞っているだけだ。最後に2人が互いを信頼するショットがあって、やっと普通のバディ・ムービ―として終わる。
監督は『ルーキー』のジョン・リー・ハンコック。
Comments
豪華共演のバディムービー、なかなか楽しめましたね!
Posted by: onscreen | June 23, 2019 09:58 AM
大方のバディムービーの軽みはありませんでしたが、2人の微妙な関係が面白かったですね。
Posted by: 雄 | July 03, 2019 05:09 PM