« 『シャドー・オブ・ナイト』 インドネシアの格闘技映画 | Main | 泰山木の花 »

June 04, 2019

『ガン・シティ』 スペインの歴史ハードボイルド

Gun_city_poster

『ガン・シティ(原題:La Sombra de la Ley)』はスペインのネットフリックス・オリジナル作品。原題は「権力の闇」とでも訳すのだろうか。1921年のスペインを舞台にした政治ミステリー映画。

スペイン内戦が勃発する15年前に当たる。スペイン内戦はジョージ・オーウェルの『カタロニア賛歌』やヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』で有名だけど、その15年前のスペインの政治情勢なんて外国人にはとんと分からない。しかも、やがて内戦につながる勢力が入り乱れて複雑怪奇。

バルセロナで軍の列車が何者かに襲われ、大量の銃が奪われる。バルセロナ警察のレディウ警部(ビセンテ・ロメロ)が捜査をはじめると、マドリード警察からウリアルテ(ルイス・トサル)が派遣されてきて、ともに捜査に当たることになる。工場ではアナーキストが主導するストライキが行われている。リーダーのサルバドールは穏健派だが、その娘のサラ(ミシェル・ジェネール)と恋人のレオンは暴力によって革命を起こそうとする過激派。街ではキャバレーを経営する男爵が工場主の資本家とつるみ、裏世界ともつながって怪しげな商売をしているらしい。

レディウ警部と部下は武器強奪はアナーキストの仕業と見、容疑者を拷問の末に殺害してしまう。一方、ウリアルテはアナーキスト・グループとも男爵とも情報交換して真相を探ろうとする。ストライキの工場労働者が警官と衝突したとき、ウリアルテはサラを助けてサラの信頼を得る。ウリアルテは、リーダーのサルバドールが男爵の手下に命を狙われた際もサルバドールを助ける。レディウ警部は、マドリッドから来たウリアルテの狙いが何なのか疑問を抱く。映画を見る者にもその正体はわからない。

アナーキストが力を持ち、騒然とした政治情勢。アナーキストと警察の対立をあおる勢力もある。キャバレーの頽廃的なショー。魅力的な歌姫ロラもいる。建築途上のサグラダ・ファミリアがちらりと映ったりする(もちろんVFX)。1920年代の風俗、服装や車がノスタルジック。武器強奪は誰の仕業なのか、ウリアルテの正体は何なのか。二つの謎が徐々に明らかになってゆく。

当時のスペインは軍がクーデタを起こし、軍による独裁政権の下で左右の対立が激化していた。植民地のスペイン領モロッコで反乱が起こって戦争状態がつづき、ウリアルテの背中にはそこで負った火傷の跡がある。心身の傷を負い一人で行動するウリアルテは、ダシール・ハメットやチャンドラーの小説のヒーローに近い。やがて内戦へと至るスペインの時代状況を背景にした異色のハードボイルドを楽しみました。監督はダニ・デ・ラ・トレ。

 

|

« 『シャドー・オブ・ナイト』 インドネシアの格闘技映画 | Main | 泰山木の花 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 『シャドー・オブ・ナイト』 インドネシアの格闘技映画 | Main | 泰山木の花 »