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May 13, 2019

『セレニティ 平穏の海』 青い海の非現実

Serenity

マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ダイアン・レインと魅力的な役者がそろっているのに、『セレニティ 平穏の海(原題:Serenity)』はアメリカ国内では興行的にこけてしまったようだ。ネットフリックスが海外配信権を手に入れたのは、そのことと関係があるのかどうか。

こけた理由は映画を見ればすぐに分かる。ミステリーといっても、特に謎があるわけではない。クライマックスにいたるサスペンスも、普通のエンタメならじわりじわり盛り上げるところを、ほんの一瞬の描写であっけなく通りすぎてしまう。確かに、肩透かしをくらった感は否めない。でも、だからといってつまらない映画ではなかった。

映画全体が、これが現実なのか非現実なのか、よく分からないつくりになっている。怪しげな登場人物が、「これはゲームの一部なんだ」というセリフを繰り返す。その人物が、バグが生じたようにいきなり画面から消えてしまったりする。その奇妙なテイストが捨てがたい。

ディル(マシュー・マコノヒー)はフロリダ沖の島(架空)で釣船の船長として、何かから隠れるように暮らしている。彼は巨大マグロを何度か釣りかけたが失敗し、「ジャスティス(正義)」と名づけたそのマグロを釣ることに情熱を燃やしている。ある日、元妻のカレン(アン・ハサウェイ)がディルの前に現れる。元妻はディルとの間に生まれた子供を連れて裕福な男と再婚したが、夫の暴力に耐えられない、釣りが趣味の夫を釣船に乗せ、沖で事故に見せかけ殺してほしいとディルに頼みこむ。ディルは新しい父親に心を開かない息子のために、その依頼を承諾する。

一方でディルが巨大マグロを「ジャスティス」と名づけたり、釣船の名が「セレニティ(平穏)」だったりする非現実感に対して、バハマ諸島あたりをイメージしているのかアフリカ系住民が住む色彩豊かな港町のストリートのリアル感がとてもいい。港に一軒だけのバー兼レストランの、いかにもそれらしいオーナー。バーの定席にいつも座っているアフリカ系の老人。港が見える家に住む、ディルの愛人コンスタンス(ダイアン・レイン)との束の間の情事。コンテナを改装したような、ディルの殺風景な家。ひとりだけスーツにネクタイで、ディルにつきまとう釣具会社の謎めいたセールスマン。

元妻の夫を殺すことを心に決めたディルが、島の地図を取り出して広げる。島の周囲の海域にはバハマ諸島があるはずだが、地図にはただ海が広がっているだけ。ふっと入りこむ非現実。

監督のスティーブン・ナイトは脚本家として知られ、クローネンバーグの『イースタン・プロミセズ』も彼の手になる。そうと知って、このテイストも納得。現実と非現実のからくりは最後に明らかになるけれど、青い海と、脳内の妄想がうまく絡みあって、サスペンスとは別の味わいの映画でした。

マシュー・マコノヒーがいいな。

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