『バスターのバラード』 コーエン流「西部開拓史」
The Ballad of Buster Scruggs(viewing film)
コーエン兄弟の『バスターのバラード(原題:The Ballad of Buster Scruggs)』は、もともと6本のテレビシリーズとして企画されたらしい。でもネットフリックスが配給権を買ったことで、6本をまとめて1本の映画にした。だから6本のテイストもスタイルもばらばらだけど、それが逆にオムニバス映画としての面白さになっている。コーエン兄弟のいろいろな面──陰鬱さやブラックユーモアや残酷さや、残酷を突き抜けたあっけらかん──を楽しめる。兄弟が脚本を書き、演出したコーエン流「西部開拓史」だ。
第1話はミュージカル仕立て。流れ者の凄腕ガンマンがウェスタンの名曲「クール・ウォーター」を口ずさみながら、酒場で次々に立ちはだかるカウボーイを殺してゆく。ところが、1対1の決闘であっけなく殺されてしまう。殺されたガンマンは背中に羽が生え、天使になって天に上ってゆく人を食ったラスト。
第2話は、荒野にポツンとある銀行でカウボーイ(ジェームズ・フランコ)が強盗に変身する。ところが銀行員がなぜか強く、カウボーイは捕まって絞首刑になりそうになる。やっと逃れたと思ったら、今度は牛泥棒に間違えられて絞首刑になるというオチ。
第3話は沈鬱だ。主人公は馬車を駆り町から町へ流れる旅一座の男(リーアム・ニーソン)。出し物は、男がロンドンで買った両手両足のない青年の一人芝居だ。青年はシェークスピアばりのセリフを語り、「人民の人民による人民のための政治を絶やしてはならない」とリンカーンの演説を繰り返す。だが客は少ない。窮した男は、足し算できる芸をもつ鶏を買うが、青年が足手まといになって、、、。
第4話は、それまでとはテイストが異なる。人跡未踏の谷(コーエン兄弟はじめてのデジタル撮影が見事)にやってきた金鉱掘りの老人(トム・ウェイツ)が金脈を掘りあてる。なるほど金脈はこんなふうに探していくのか。ところが老人は彼をつけてきた男に襲われる。老人は反撃。トム・ウェイツのキャラクターもあって、この挿話は美しい風景のなかで、ほのぼのした感じになっている。
第5話は、いちばんストーリー性が豊かで、いわゆる西部劇ふう。オレゴンを目指す幌馬車隊。旅の途中で兄が病死した娘は案内人の男を頼り、やがて結婚の約束をするまでに。ところが先住民の襲撃に遭い、殺されると早とちりした娘は自ら命を絶ってしまう。
第6話は、駅馬車のなかのセリフ劇。馬車の屋根に死体が載っているのがミソだ。この死体は、二人の賞金稼ぎが殺したお尋ね者。イギリス人とアイルランド人の賞金稼ぎらしからぬ身なりの二人が、ガチガチの老婦人と罪と潔白をめぐって議論し、老婦人は怒りで発作を起こしてしまう。山だしの漁師やフランス人の男がそれをなだめる。宿に着き、賞金稼ぎは死体を持って階段を上ってゆくが、果たしてあとの3人は?
見終わって、死者累々という印象を持つ。実際、西部開拓史はそのように無数の死者の上に成り立っているのだろう。それを歴史や社会性といった側面でなく、死をめぐる残酷と皮肉のドラマに仕上げているのがコーエン流ということか。
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Comments
どの話もブラック風味が利きまくっているだけでなく
その悲惨さの合間に「歌」が登場するのが良かったです!
Posted by: onscreen | April 07, 2019 09:11 AM
そうか、歌というのがキーワードですね。
兄弟のブラック風味はクセになって中毒症状を呈します。
Posted by: 雄 | April 10, 2019 07:11 PM