『アウトサイダー』 J・レトの花田秀次郎
The Outsider(viewing film)
1950年代大阪を舞台にした米国製ヤクザ映画。主演は『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー助演男優賞を得たジャレッド・レト、監督は『ヒトラーの忘れもの』が話題になったデンマーク出身のマーチン・サントフリートとくれば、どんな映画か見たくなるってもの。ネットフリックスが『アウトサイダー(The Outsider)』の世界独占配給権を買ったのも、その異色の組み合わせにあったかもしれない。
見ていて、過去のいろんな映画の断片や記憶が呼び起こされた。『ブレードランナー』『ブラック・レイン』『仁義なき戦い』『キル・ビル』『アウトレイジ』、そして『昭和残侠伝』などなど。
『ブレードランナー』はリドリー・スコットらしい美学的なオリエント趣味の映画という意味で。『ブラック・レイン』を経由して、『アウトサイダー』もその延長上にある。『ブラック・レイン』とこの映画は大阪が舞台ということで共通しているが、映像的にも影響を受けているんじゃないかな。『ブラック・レイン』は冒頭、機上からながめる阪神工業地帯の工場群と煙突の煙が印象的だったけど、この映画でも似たショットが繰り返し出てくる。
元米兵で日本で犯罪を犯し服役中のニック(ジャレッド・レト)は、囚人仲間に殺されそうになった清(浅野忠信)を助けたことから、大阪のヤクザ白松組組員である清の引きで客分となる。白松組は年老いた親分(田中泯)をオロチ(椎名桔平)が補佐しているが、大阪に進出してきた神戸のヤクザに押され、小競り合いがつづいている。ニックは白松組の先兵となり、親分の信頼を得て杯をもらう。
対立するヤクザ組織の抗争という設定は、言うまでもなく『仁義なき戦い』や『アウトレイジ』を下敷きにしてる。椎名桔平など、『アウトレイジ』からそのままこの映画に移ってきたみたい。設定だけでなく、指を詰めるシーンも共通。『仁義』では指を詰めるシーンにはコミカルな味があったが、こちらはまるで羊羹でも切るようにスッと指を切り落とす。
ニックは清の妹(忽那汐里)と愛し合うようになるが、オロチも妹に執心している。オロチは白松組を見限り、神戸の組織と手を結ぶ。親分が命を狙われ、清も命を落とす。ニックは、妹を守るためにと清から手渡された日本刀を手に、、、。
『仁義』や『アウトレイジ』は熱気あふれる映画だったが、この映画は登場人物も声高に叫ばず、全体に静かな印象がある。それはニックが口数少なく、無表情でいることと関係しているだろう。この主人公の人物造形のモデルは、僕の見るところ『昭和残侠伝』の高倉健ではないか。ジャレッド・レトは役になりきることで有名な役者だけど、でも文化的な基盤を僕らと共有しているわけではない。高倉健の無口と無表情に、僕らは憤怒や悔恨といったいろんな感情が満ちあふれているのを理解するけど、ジャレッド・レトからは無口と無表情以上のものを感じられない。
だから作り手の思いとしては高倉健の花田秀次郎でも、ジャレッド・レトのニックの生きざまにすっと一本筋が通っているように見る者に受け取れない。最後の殴り込みも、花田秀次郎はがんじがらめの日本的しがらみをぶった切ることで見る者にカタルシスを与えたが、ニックのそれはオロチの裏切りによって清が死んだことへの個人的怨恨を晴らすためのように見えてしまう。ラストでニックが妹と抱き合うのも、その印象を強くする。カタルシスは来ない。
いまひとつ残念だったのは、そういうものから切れた『ブラック・レイン』から30年もたつのに、観光客レベルのオリエンタル趣味(大衆演劇ふうの心中劇や相撲、刺青、日本刀──これは『昭和残侠伝』というより『キル・ビル』)が出てくること。逆に驚いたのは、1954年の大阪という設定を不自然に感じさせないロケをしていること。実際に大阪で撮影したようだけど、路面電車の走る市街などはどこだろう。夜、山の麓の市街を電車が光をあふれさせて走る、神戸らしきショットも印象的だ。
あれこれ言ったけど、ともあれ楽しめる映画ではありました。
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