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December 30, 2018

2018 映画Best10

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今年もベスト10を選べるほどたくさんの映画を見ていない。特に秋以降はさまざまな事情があって、ほんの数本しか新作を見られなかった。それでも、毎年自分なりのベスト10を何十年もつづけて選んでいること、あれこれ迷ってランキングを決めるお遊びの愉しさを味わいたくて選んでみました。洋画も邦画も一緒の10本です。

1 ジュピターズ・ムーン
ハンガリー国境にたどり着いたシリア難民青年が、銃撃された瞬間に空中浮遊の能力を得る。超能力青年を匿いつつ金儲けを企む、人生に敗れた中年医師。青年を追う老刑事。三者の絡みあいから東欧の現実が浮かびあがる。ファンタジー、寓意劇、社会派、ノワール、いろんなテイストが混然となり陶然とさせられた今年のベスト。

2 万引き家族
日本映画の主流だった家庭劇、とりわけ小津安二郎の世界を裏表ひっくり返し現代劇として蘇生させた。血のつながりのない人間がつくる疑似家族。ビルに囲まれた古い日本家屋で、隅田川花火の音だけ見上げる暗い空。疑似家族のささやかな幸せと、血のつながった家族の空虚。是枝裕和監督の代表作として記憶されるだろう。

3 ラブレス
モスクワ郊外に住む、別居状態の裕福な夫婦。ある日、息子が姿を消す。そのことが、夫と愛人、妻と愛人、それぞれのカップルに波紋を引き起こす。でも、いなくなった息子のことを誰も本当には気にしていない。冷え冷えとした風景のなかで露わになる、ロシアの、ひいては現代人の精神風景。タルコフスキーのDNAが魅力。

4 スリー・ビルボード
アメリカ中西部の広野に建てられた3本の広告。「レイプされ殺された」「そしてまだ逮捕されない」「どうしてくれる? ウィロビー署長」。田舎町で、娘を殺された母の怒りがさらなる怒りを引き起こす。悪人にも善人にもなりきれない、普通の人間たちの悲喜劇。黒白の決着がつかず、複雑な陰影を残して終わるのがいい。

5 フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
フロリダ南部。ディズニー・ワールド周辺のパステルカラーの街に住む貧困層の母娘。母は売春や窃盗で暮らし、ダイナーの廃棄料理で腹を満たしながら、悪ガキどもはいたずらして遊び回る。背後には亜熱帯の空と虹。最後、いきなりiPhone画面の子供の眼となって、悪ガキたちの「フロリダ・プロジェクト」に涙する。

6 苦い銭
中国最大の子供服の生産地として知られる浙江省湖州市で、小さな縫製工場や労働者のアパート、路上でカメラを回したワン・ビン監督のドキュメンタリー。例によって長回しで、少女が長時間働くシーンや、こんな場面よく撮影できたと思うほどリアルな夫婦喧嘩。グローバル化が進んだ世界の、片隅の光景に胸を衝かれる。

7 ハッピーエンド
北フランスで建築業を営む富裕な一家。引退し認知症になった祖父。会社を切りまわす娘(イザベル・ユペール)。出来の悪い息子たち。でもいちばん不気味なのは13歳の孫娘。母親に抗うつ剤を与えて死にいたらしめ、祖父の自殺を見守る。ブルジョア一族の腐臭を、ハネケ監督が冷徹なカメラで辛辣に映しだす。

8 ミッション・インポッシブル フォール・アウト
VFX全盛の時代に、トム・クルーズ56歳はあくまで身体を張りつづける。ヘリコプターにしがみつき、高度8000メートルからヘイロージャンプ、ビルからビルへ跳び(これで骨折)、絶壁の峡谷で実際にヘリ操縦と今回も全開。物語より自身のアクションにこだわる癖はあるけれど、アクション映画の原点を見るようで無条件に楽しめる。

9 ウィンド・リバー
ワイオミング州の先住民保留地を舞台にしたクライム・ストーリー。先住民の娘の殺人事件を捜査する過程で浮かびあがる先住民の悲しみ。これが長編第1作であるテイラー・シェリダン監督が選んだのがこの国の「インビジブル・ピープル」(『万引き家族』について言われた言葉)であることに、アメリカ映画の健全さを見る。

10 寝ても覚めても
双子のように似た二人の男に否応なく惹かれていく女。出会いも別れも電撃のようにやってくる。物語や心理をたどって、観客が納得できるようには描かれていない。いや、本人たち自身にもその理由は分からない。濱口竜介監督はそれを分からないままに提示する。新しい恋愛映画。

番外 幻土
東京フィルメックス上映作品。シンガポールの埋め立て地で行方不明になった中国移民の労働者。事件を追う中国系の刑事。ミステリーの枠を借りながら、「誰も見たことがないシンガポール」の風景と精神が重ね合わされる。浦田秀穂キャメラマンの撮影が素晴らしい。

ほかにリストアップしたのは『レディ・ガイ』『目撃者 闇の中の瞳』『シェイプ・オブ・ウォーター』『タクシー運転手』『ファントム・スレッド』『ゲッベルスと私』『運命は踊る』『僕の帰る場所』『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』『ここは退屈 迎えに来て』といったところ。一年間おつきあいいただいて、ありがとうございました。皆さん、よいお年を。

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Comments

雄さん、あけましておめでとうございます。
コメントとTBをいただきありがとうございました。
雄さんのベスト、1、3、6、7が未見です。
観ても観てもキリがないですね(笑)。
お忙しい中、映画を観て本を読んで書評を書かれ、ボランティアもされている雄さんを尊敬しています。
今後もご無理のない範囲で映画評や書評をアップしていただけると嬉しいです。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
真紅拝

Posted by: 真紅 | January 03, 2019 at 05:53 PM

明けましておめでとうございます。

真紅さんのベスト10で私が見たのは④⑤⑩の3本だけという体たらくです。①②は真紅さんが繰り返しブログと取り上げておられるので、見たいとは思っていたのですがまだです。機会があれば見ようと思います。

今年もよろしくお願いします。

Posted by: | January 03, 2019 at 08:01 PM

こんにちは。今年もどうぞよろしくお願いします。
相変わらずこちらのエキブロからはTBが飛ばせないようなので、ホント今年も申し訳ないのですが、コメントだけ入れさせていただきますね。
流石の選択というか、渋めの作品が多くて、素敵です。1位に選ばれた作品は是非観たいなぁ、と思いました。「ラブレス」は私も入れようかどうか迷いましたが(画質もとても好きなテイストでしたまで)ちょっと展開が辛過ぎて見送ってしまいました。でも、監督ともどもとても好きな作品です。辛いけど。
また色々な作品の感想も拝見させていただきたいので、今年もどうぞよろしくお願いします。

Posted by: ここなつ | January 05, 2019 at 12:20 AM

ここなつさん、コメントありがとうございます。
SNSが主流になったからでしょうか、ブログからTB機能がなくなりつつあるのは寂しいことです。

私も10本選んでみて、渋めというか苦い味の作品が多くて自分でもびっくりしました。俺の好みはこうなのか、と。で、慌ててリストのなかから『ミッション・インポッシブル』を格上げした次第です。こういうのも大好きです。でもマーベル系やディズニー系は好みでないので、正統派のアクション映画が少なくなったのが残念です。

ここなつさんのブログ、いつも楽しみにしています。
今年もよろしくお願いします。

Posted by: | January 06, 2019 at 02:41 PM

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