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November 15, 2018

『MdN』の明朝体特集

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元雑誌記者・編集者なのに、近頃雑誌への興味が薄れてきた。読んで面白いと思える雑誌が少ないし、買っても失望することが多い。でも久しぶりに書店で見た瞬間に買おうと思い、充実した特集に満足したのがこれ。デザインとグラフィックの情報誌『MdN』11月号の「明朝体を味わう。」

明朝体というのは活字の書体(フォント)のひとつ。主に雑誌や単行本の本文に使われ、僕たちが日常的にいちばん目にする機会の多い書体だ。上の写真で、「明朝体を味わう。」という見出しが明朝体。

明朝体が生まれたのは中国で明の時代だった。木版印刷が普及して、彫師が木製活字を彫りやすいよう直線的で縦が太く横が細い明朝体がつくられた。それが日本に輸入され、金属活字が製造されるようになった明治初期、縦横の長さが等しい正方形の漢字活字に合わせて平仮名活字がつくられ、漢字と平仮名がセットでいろいろな書体が開発された。初期には楷書体が新聞や雑誌に多く使われたが、時代がかった古さを感じさせたためか、次第に明朝体が主流になってゆく。

その時代の代表的な明朝が築地活版製造所が開発した築地体。大日本印刷の前身、秀英社が開発した秀英明朝。今も文芸ものに使われ評価の高い精興社書体。戦後、活版から写植(写真植字)に移行した時代の石井中明朝体(MM-OKL、写研)やリュウミン(モリサワ)、デジタル時代にデジタルフォントとして開発されたA1明朝などなど。計24種類のフォントの歴史や特徴が使用見本の図版とともに解説されている。付録として、それぞれの書体で文字組みした書体見本帳もついているのが憎い。

僕は活版印刷の最後の時代から写真植字、そしてDTP初期の時代に現役だった。活版では新聞系週刊誌の新聞活字(特殊な明朝)、大日本印刷で印刷していた週刊誌の秀英明朝。その後は写植の時代になって石井中明朝体、DTPの時代にはリュウミンを使うことが多かった記憶がある。一昨年、仲間と自費出版したときはIN DESIGNを使って自分で文字組みし、このときはアドビ社が開発した小塚明朝を使った。現役時代はデザイナーが書体を選んでくれたから、こちらは基本的な考え方を伝えるだけで事がすんだ。これらの明朝がどんな系譜にあり、どんな特徴があるのか、この特集を読んではじめてわかった。

明朝体は空気か水のようなもの、という言い方がある。編集者として僕もこの意見に賛成だ。雑誌や書籍に明朝は必須だが、普段それが明朝だと書体を意識することはない。見出しは人目を惹くためいろんな書体を使って変化をつけるけど、本文を読んで内容でなく書体に意識がいくようではいけない。本文は読みやすさ、可読性が第一。だから、読みやすくて、読者が無意識のうちに慣れ親しんだ書体がいい。

僕には手痛い失敗がある。週刊誌で2ページの連載を企画して、デザインを新進気鋭のデザイナーに頼んだ。毎週、写真を2点入れたレイアウトは斬新だったが、見出しに使うことの多い太い明朝を本文に使った。デザイン的には美しかったが、読んで疲れる。筆者からも、読みにくいと注文がついた。その通りだった。以後、本文は可読性が第一と肝に銘じた。

同じ明朝体といっても、時代とともに変化する。時代を映す。例えば今は縦組みだけでなく、横組みしてもきれいな明朝体が求められる。紙でなく画面で読む機会が多いことを考え、横組みに特化した明朝体もある。DTPの時代になって、新しい明朝体が次々開発されている。一方にシャープでメカニカルな明朝体があるかと思えば、レトロでおしゃれ感ただよう明朝体もある。

僕は明朝体をずっと道具として使ってきたけれど、この特集を読んで味わうことと、そのポイントがわかった。最近は単行本や映画のタイトルに明朝体を使うことも増えている(『君の名は。』とか)。新刊の棚やポスターを見る楽しみがまたひとつ増えた。


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