『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』 赤いノワール
若いころは叔父であるフランシス・F・コッポラの映画に出たり、『リービング・ラスベガス』でアカデミー主演男優賞を取ったニコラス・ケイジが今では怪優といったイメージの役者になったのは、2006年の『ウィッカーマン』や『ゴーストライダー』といったカルト映画(どちらも残念ながら未見)でゴールデンラズベリー賞最低主演男優賞に2年つづきでノミネートされたあたりからだろうか。
僕は彼の映画をたくさんは見てないけど、怪優としての雰囲気は『バッド・ルーテナント』(ヴェルナー・ヘルツォーク監督)や『ドッグ・イート・ドッグ』(ポール・シュレイダー監督)で察することができる。『マンディ 地獄のロード・ウォリアー(原題:Mandy)』もそんな系列の一本。B級映画のテイスト満載で作品としての完成度もけっこう高い。おどろおどろしいアクション映画として楽しめる。
レッド(ニコラス・ケイジ)とマンディ(アンドレア・ライズブロー)の夫婦は人里離れた山中の一軒家に暮らしている。そこへカルト集団がやってきて、教祖がマンディを見初め、彼女を拉致するよう信者に命ずる。マンディは関係を迫る教祖を笑いとばし、怒った教祖は彼女を布にくるんで火あぶりにする。レッドの復讐が始まる……。
話はごく単純。でも冒頭からレッドの名前通り赤い色彩の画面がゆったりしたテンポで重ねられる。そこに故ヨハン・ヨハンソン(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品を多く担当していたが、今年2月に亡くなった。これが最後の映画音楽)作曲の不安をかきたてる音楽がかぶさる。『ドッグ・イート・ドッグ』はピンク色の画面が多い「ピンクのノワール」といった感じだったが、こちらは「赤いノワール」とでも言うか。
前半はカルト集団の教祖がマンディを拉致し、殺すまで。マンディを演ずるアンドレア・ライズブローの神秘がかった無表情が印象的だ。後半の復讐劇になるとニコラス・ケイジの独壇場。相手は精神を病んだ異形のバイク集団とカルト集団。返り血で顔を真っ赤に染めたレッドがひとり、またひとりと殺してゆく。武器はクロスボウ、自分で鋳こんだ剣とチェーンソー。双方がチェーンソーを振り上げる対決など、あまりにB級な徹底ぶりに笑ってしまいたくなるほど。
ニコラス・ケイジが血染めの復讐鬼の役どころを楽しんでるのがびんびん伝わってくる。監督は新人のパノス・コストマス。カルト系の面白い監督になるかも。
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