『ここは退屈迎えに来て』 誰も迎えに来ない
廣木隆一監督の映画を初めて見たのは寺島しのぶが魅力的な『ヴィアイブレータ』だった。以後、廣木監督は『軽蔑』『さよなら歌舞伎町』『彼女の人生は間違いじゃない』といった作家色の濃いインディペンデント映画をつくる一方で、『余命1ヶ月の花嫁』『100回泣くこと』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』といったメジャー系のエンタテインメント映画にも起用されてきた(こちらの系統はあまり見てないけど)。恋愛映画がうまいとか、女優をきれいに撮るといった評価が高かったからだろう。
KADOKAWA映画『ここは退屈迎えに来て』は後者のエンタテインメント系統だけど、いかにも廣木監督らしいテイストの作品に仕上がっていて楽しめる。まず「余命1ヶ月」のようなドラマチックな設定がない。最大の出来事が、高校時代の憧れだった男子に会いにいくというだけの話。そこでなにが起こるわけでもない。それに青春映画といっても高校生のキラキラした青春が中心になるわけでなく、30歳近くなった彼ら彼女らそれぞれの悔恨といった感情が映画の底を流れている。
地方都市(富山)を舞台に、2013年の現在、2004年の高校時代、そして2008年、2010年と、四つの時を自在に行き来しながら語られる群像劇。それぞれの時制でまず車に乗る男女(あるいは女性同士)が登場して話がどんどん広がり、しばらくは人間関係もよく分からない。ついに主人公とすれ違わない登場人物もいる。最後になってやっとつながる人間関係がある。そんなドラマの崩し方が、ドラマチックとは正反対なのに快いリズムになるから面白い。
「私」(橋本愛)は東京で仕事をしていたが故郷に戻り、タウン誌のライターをしている。ひょんなことから、高校時代はサッカー部のエースで女子の憧れの的だった椎名(成田凌)に会いにいくことになる。椎名は今、自動車教習所の教官をして地味に生きている。椎名に教官の職を紹介したのは新保(渡辺大知)で、新保は同性の椎名にほのかな思いを持っている。「私」は内気な新保に「椎名の元カノ」だと思われているのが嬉しい。
実は高校時代、椎名とつきあっていたのは「あたし」(門脇麦)だが、別れた後も椎名を忘れられず、椎名を知る元同級生とズルズルの関係をつづけている。美人のあかね(内田理央)は東京でモデルをしていたが仕事がなくなって戻り、フリーターの生活をしながら結婚願望がある。ほかにも何人かの登場人物が出てくる。
彼らが車に乗り、地方都市の特徴のない風景のなかを走りながら会話することで話ともいえない話が動いていく。一種のロードムービーと言えるかもしれない。ファミレスやゲーセンでも会話がつづく。東京が忘れられないタウン誌のカメラマン(村上淳)とか、女子高生と援助交際している皆川(マキタスポーツ)とか、脇役もいい味を出している。いかにも青春映画らしいのは、プール掃除をしていた「私」と新保がプールに飛び込み、周囲の高校生たちもみんな飛び込んで水をかけあうシーン。逆光に光る水しぶきが、ここだけは輝いている。
なんの変哲もない地方都市で、なんの変哲もない日常を、それぞれが悔恨を抱えながら生きていく。誰も迎えに来ないことは、登場人物のみんなが分かっている。その姿がじわっと沁みてくる。
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