上野で展覧会二つ
雨模様の一日。上野で展覧会を二つ、はしごした。
まずは東京芸術大学美術館陳列館で「台湾写真表現の今」(~9月29日)。1960年代以降に生まれた写真家8人の作品が展示されている。スナップショットはなく、なんらかのコンセプトに基づいて撮られたもの。そこから、変貌する台湾の風景や、移民として入ってきたアジア人との混血や、傷ついたジェンダーの問題などが見えてくる。布に印刷された写真に刺繍をほどこすような、伝統とのマッチングもある。
僕が写真雑誌の編集者をしていた1990年代、台湾の写真といえば古典的な風景写真しか紹介されなかった。大陸でもぼつぼつ新しい写真が出てきていて、台湾にもあるはずだと思っていたけど、当時は分からなかったこういう若い世代の試みが今や主流になっているんだろう。
お茶を飲んで一休みし、東京都美術館で「藤田嗣治展」(~10月8日)。
10年ほど前、竹橋の近代美術館で没後はじめての大がかりな藤田展を見て彼の戦争絵画に興味をもった。近代美術館は自分のところや貸し出しで小出しに見せるけど、戦争絵画全体を見せることはしない。今回は、戦争画は代表作「アッツ島玉砕」「サイパン島」の二点のみ。その前後、戦前のパリ時代と南米旅行、戦後のアメリカ滞在とパリ時代の絵がたくさん集められている。
図録は買わなかったけど、展示を見る限り、戦後、藤田が画壇で戦争責任を問われてパリに脱出し、日本国籍を捨てレオナール・フジタとなったことと彼の晩年の作品との関係といったものには関心が払われていなかった。あくまで日本人・藤田嗣治の偉大な業績。
写真に写っているパリのカフェの絵は、藤田が日本を捨て、でもフランスに入国できずに滞在したニューヨークで描いたもの。華やかなりし時代の記憶に基づいて描いた作品で、追憶と寂寥がひしひしと伝わる名品でした。
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