『きみの鳥はうたえる』 正統派の青春映画
佐藤泰志原作の「函館もの」は3本とも見ている。それぞれタッチの違う映画で、記憶だけでいうと『海灰市叙景』はモノクロームの絵画的ショットが記憶に残るノスタルジックな小品、『そこのみにて光輝く』は手持ちカメラを多用した、1970年代の神代辰巳ふうの文芸もの、『オーバー・フェンス』は山下敦弘監督らしくけだるいけれど、そこはかとなく明るい今ふうの映画に仕上がっていた。
『きみの鳥はうたえる』はそれらに比べると、丹念につくられた正統派の青春映画といった印象だ。男二人に女ひとりのカップルも、青春ものの定番ともいえる組み合わせ。冒頭とラスト近くで函館山を望む夜景のショットが入るほかは、誰もが函館と分かるショットはない。でも行ったことのある人なら、いかにも函館の街だなあと感じられる空気が写しこまれている。
書店で働く「僕」(柄本佑)は、行きがかりで同僚のアルバイト佐知子(石橋静河)とデートし、僕のアパートでベッドを共にする。僕はアパートで、仕事もせずぶらぶらしている静雄(染谷将太)とルームシェアしている。やがて顔を合わせた三人は仲良くなり、一緒にバーやビリヤードやクラブで夏の夜をすごす。「僕」は、佐知子が静雄と親しくなるのを見て、むしろその背中を押すような態度を取る……。
なにがいいといって、「僕」を演ずる柄本佑が素晴しい。いつも自分の気分だけで動き、書店員としての仕事も佐知子との恋の行方も成行きまかせ。世の中どうでもいいといった風情の青年のぶっきらぼうとあてどなさが身体から滲み出ている。相手役の石橋静河も『夜空はいつでも最高密度の青色だ』よりずっとのびやかで、生き生きしてる。染谷将太もマザコンふうな男の子を好演。三人が徹夜明けで街にさまよい出て、朝日が反射する路面電車の線路をふらふら歩くショットがいいな。
最後に「恋か友情か」ふうな古典的問いかけで終わるのも、この正統派の青春映画にふさわしい。監督は三宅唱。意固地な同僚の書店員や佐知子と不倫している店長、静雄を心配する母親など、誰にも温かい目を向けている。
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