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August 19, 2018

『カメラを止めるな!』の社会現象

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One Cut of The Dead(viewing film)

日比谷の東京宝塚劇場地下にある旧スカラ座は、今どきの映画館に珍しく大スクリーンで座席数も多い、大きな映画館だった。今は隣にできたミッドタウン日比谷のシネコン、TOHOシネマズと地下通路でつながり、その一部になっている。東宝配給のいわゆる大作は近くの有楽町マリオンにかかってしまうせいか、旧スカラ座は映画館の大きさに見合う作品があまり上映されていなかったように思う。たまにスカラ座に行っても、ぱらぱらとしか客が入っていなかった記憶しかない。

その旧スカラ座に『カメラを止めるな!』を見にいったら、平日の午後で座席の7割以上が埋まっているのに驚いた。若いカップル、女性同士も多く、ざわざわと映画が始まる前の期待感や熱気すら感ずる。旧スカラ座のさらに昔、道路を隔てたところにあった元祖スカラ座の満員の映画館(有楽座だったか?)で、『アラビアのロレンス』はじめ数々の映画を見たときの興奮をちょっと思い出した。

『カメラを止めるな!』は、6月にミニシアター2館で公開され、2週目から満員立ち見が出るようになり、7館、そして100館と上映館が広がっていった。低予算のインディペンデント映画が口コミやSNSで評判になり、客が詰めかける例は過去にもあったけれど、これほど大規模なのは日本映画で初めてじゃないかな。ふだん映画を見ない層が映画館にわざわざ駆けつけたわけで、ともかくもめでたい。これがきっかけで映画ファン、映画館で映画を見る楽しさに目覚める若い人が少しでも増えるといい。

映画はその成り立ちの当初から産業でもあった。いまデジタル化の波のなかで旧来の映画産業だけでなくアマゾンやネットフリックスが製作に参入してネット配信のみの映画が生まれるなど、映画をつくる環境、見る環境が大きく変わりつつある。そういう時代に映画館にたくさんの人が詰めかけるのは、僕のように古い映画ファンにはぞくぞくするほど嬉しい。

これだけの客を呼べたのは、やはり『カメラを止めるな!』が楽しめる映画になっているからだろう。正直のところ作品の質は映画のなかのセリフを借りれば「そこそこ」だけど、映画をつくることについての映画という通好みの題材をコメディーに仕立てて、いろんなアイディアが詰めこまれているのが買える。笑って、ちょっと怖がって、でも楽しんで、最後にみんなでいい気持ちになれる。映画ファンでなくても面白がれる要素をそなえている。

冒頭の37分は、ゾンビもの。人里離れた廃工場でゾンビ映画を撮影中のクルー。カメラマンや助監督が次々に本物のゾンビになってしまい、主演の女優(秋山ゆずき)や男優(長屋和彰)に襲いかかる。モノクロームで、37分が手持ちカメラのワンショット。不自然な間やセリフがあって、自主製作映画ふうのチープなつくりになっている。

エンドマークが出て、まさかこれで終わりじゃないよなと思っていると、次のパートが始まる。いわばゾンビ映画のメイキング。「早い、安い、そこそこ」と評判のテレビ番組の監督(濱津隆之)が、ゾンビ専門チャンネルの開局記念に、「ゾンビ映画をつくっていたクルーがゾンビに襲われる」番組を30分生中継、ワンカットでつくってくれと頼まれる。冒頭の37分が、その生中継の映像だったというわけ。

スポンサーやプロデューサーの意向にさからえない監督は、家庭でも元女優の妻(しゅはまはるみ)や演出家志望の娘(真魚)に頭が上がらない。情けない監督が、準備が進み、生中継の本番ではどんどん本気になってゆく(「カメラを止めるな!」の決めゼリフ)。主婦業の妻が現場でいきなり女優として出演し、のめりこんでゆく。娘がスタジオを仕切る。3人の、家庭と現場のあまりの差がおかしい。

冒頭のワンカット映画で不自然だった間やセリフも、ここで舞台裏が明かされる。30分ワンカットの最中にカメラマンが転んでしまい画像が止まったり、アル中の出演者が酒を飲んで泥酔状態になったり、機材がこわれてしまったり、そんなアクシデントをどうとりつくろって生中継をつづけるか。冒頭のワンカット映画とその舞台裏の落差が笑いになる。これらは脚本に書かれ演出された「アクシデント」だが、上田慎一郎監督のインタビューによると、ワンカットの撮影中にシナリオにない本当のアクシデントが起き、それもなんとかしながらの撮影だったそうだ。その必死さがまた笑いを呼ぶ。

映画のなかのカメラマンが撮影する画面。出演者であるカメラマンとカメラを撮っているカメラの画面。ワンカット映画がどうつくられたかを明かすメイキングの画面。三つのレベルの画面が入り組んで、映画をつくることについての映画になっているのは、この映画が監督・俳優養成学校であるENBUゼミナールのプロジェクトだからだろう。

上田監督はインタビューのなかで、ジョージ・A・ロメロとかトビー・フーパーとかゾンビ映画の古典をつくった監督の名前を挙げている。僕はゾンビ映画をほとんど見ないけど、ゾンビ映画のファンなら、ここはあの映画のあの場面、この映画のこの場面と、そんな楽しみもあるだろう。

ほとんど無名の役者たちだけど、監督役の濱津隆之がいい味出してる。面白いバイプレイヤーになるんじゃないかな。

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Comments

こんにちは。弊ブログにご訪問してくださりありがとうございます。相変わらずココログさんにTBが飛ばず、ご容赦ください…。
スポンサーやプロデューサーに頭が上がらず、家庭でも存在感が希薄な再現ドラマ専の監督が、正に「カメラ」を持つと豹変する、という演出も面白かったです。パワーが溢れる作品でした。

Posted by: ここなつ | August 21, 2018 at 10:13 AM

監督インタビューによると、監督役の濱津隆之を決めてからアテ書きしたそうですね。道理でキャラが定まってます。この役者を核にして脚本が練られたんでしょう。

映画の元になった芝居の作家とクレジットを巡ってトラブルになっているようです。自主製作映画だからと気軽に考えたんでしょうが、プロデューサーがきちんと権利関係を処理していれば、こんなことにはならなかったでしょうね。

Posted by: | August 22, 2018 at 11:28 AM

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