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May 01, 2018

『女は二度決断する』 憎悪の連鎖

Photo
In The Fade(viewing film)

僕はドイツ語を知らないので『女は二度決断する(原題:Aus dem Nichts)』の原題をどう訳したらいいのか分からないけれど、英語タイトルのIn The Fadeは「虚無のなかで」といった意味になるだろうか。

ところで、この映画のポスターは日本はじめどの国もほぼ共通して、上の図柄(ドイツ語版)が使われている。このショットは、ファティ・アキン監督が写真家に「『タクシードライバー』みたいなのを」と注文して撮影したものだそうだ(どこかのサイトでそう語る監督のインタビューを読んだのだが、検索できない)。監督は、この映画の主人公のカティヤ(ダイアン・クルーガー)にどこかしら『タクシドライバー』のトラビス(ロバート・デ・ニーロ)を重ねているのかもしれない。

ファティ・アキン監督はハンブルク生まれのトルコ移民二世。これまでもトルコ系ドイツ人としてドイツとトルコという二つの国家と民族にまつわる映画をつくってきた。『女は二度決断する』はその最新作。

カティヤはクルド系トルコ人ヌーリ(ヌーマン・アチャル)と結婚し、男の子がいる。ヌーリはハンブルクのトルコ人街で会社を営み、幸せな家庭生活を送っている。ある日、事務所の前に爆弾が仕掛けられ、ヌーリと息子が犠牲になる。犯人はネオナチのカップルだったが、裁判でギリシャ人極右が二人にアリバイがあると証言し、カップルは無罪になる。カティヤは怒り、絶望して……。

映画は三つのパートに分かれ、サスペンスのスタイルで語られる。最初のパートは事件。カティヤと夫と息子との生活が突然に破壊される。警察はテロよりトルコ移民社会内部の政治や麻薬のトラブルを疑う。ヌーリには麻薬がらみで服役した過去がある。また警部がカティヤに「ヌーリはクルドか?」と聞くのは、トルコではクルド人が徹底的に弾圧され、両者が対立している現実があるからだろう。事件が起こり、白人であるカティヤの両親とクルド系のヌーリの両親がカティヤの家で顔を合わせると、互いに不信感がつのる。事件をきっかけに、カティヤの周囲がきしみはじめる。

次のパートは裁判。ギリシャの極右が、爆発があった日、カップルはギリシャにいたと証言する。夫と息子を失ったカティヤが麻薬で悲しみをまぎらわせていたことから、犯人の一人を見たというカティヤの証言の信ぴょう性が疑われる。犯人の男の父親が、息子はネオナチで爆弾の材料を持っていたと証言するが、弁護士はその証言の小さな穴を衝く。

最後のパートは復讐。カティヤは一人で、無罪放免されギリシャに逃げたカップルを追う。最初のパートでのハンブルク路上のリアルさ、次の緊迫した法廷ドラマから一転、地中海の青い海へという転換が効いている。カティヤはカップルのトレイラーに爆弾を仕掛け、しかし逡巡し、いったんは爆弾を回収するのだが……。

最後、地中海をバックに爆弾が破裂する場面で『気狂いピエロ』を思い出した。自分の顔にペンキを塗り、自ら爆弾に火をつけたジャン・ポール・ベルモンド。もっとも、ふとした気まぐれが生んだ偶然のような結末の軽みは、この映画のダイアン・クルーガーにはない。カティヤの怒りと悲しみのあまりの行動。

その思いの深さは十分に描かれているし、理解できるにしても、この結末は憎悪と報復の連鎖をまたひとつ積み重ねただけのように思える。そのことに対するアキン監督の視線が、例えばトラビスに対し感情移入すると同時にそこから身をはがすマーティン・スコセッシ監督の複雑な視線のようには感じられないのが気になった。


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Comments

こんにちは。
ココログさんにTBがつけられなくなってからもう半年以上になっていて(ココログさんから弊ブログへのTBはちゃんとくるのですが…)、だいぶご無沙汰をしてしまった感があるのですが…
この作品について、監督の結末に対する目線を気にされているように感じましたが、私はその点が邦題に表現されていると思いました。つまり、「女は二度決断する」。
もうなにもかも…の自暴自棄とはこういうことなのだ、と。それが大変映画色強く表現されているのだ、と。二度目の決断は辛過ぎましたが。

Posted by: ここなつ | July 02, 2018 at 04:03 PM

こんにちは。
このところ、いろんなブログでTBが貼れないようになっているようですね。
SNS全盛になって、ブログというメディアが時代遅れになってきているということでしょうか。
SNSは短文しか書けないので、私は長文が書けるブログが好きですが。

自暴自棄の復讐。そうですね。
まったくのフィクションなら復讐譚はたくさんあるし、むしろ好きなジャンルですが、この映画は現実にあった事件にヒントを得ているので、警察や裁判への不信(現実にトルコ系ドイツ人から見ればそのとおりなのでしょう)が復讐に短絡するのがちょっと気になったまでです。映画としてはよくできていましたね。

Posted by: | July 04, 2018 at 04:51 PM

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Tracked on May 02, 2018 at 02:58 AM

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ドイツ・ハンブルク。 生粋のドイツ人女性カティヤとトルコ系移民男性ヌーリは、学生時代に出会い結婚。 6歳になる息子ロッコと幸せに暮らしていた。 ある日、ヌーリの事務所前で爆発があり、ヌーリとロッコが犠牲になる。 警察は外国人同士の抗争を疑い、前科があるヌーリの仕事内容までもが疑われるが、犯人は「ネオナチ」のメンバーだった…。 社会派ドラマ。 PG-12... [Read More]

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