『レディ・ガイ』 知的B級映画
ミシェル・ロドリゲスをはじめて見たのは『マチェーテ』だった。『マチェーテ』は、1960~70年代にアメリカで山のようにつくられた「グラインドハウス」というB級映画(タランティーノがこれで育ったことは有名)を蘇らせた作品。強い男と色っぽい女、すぐに銃をぶっ放し、ストーリーは単純。アメコミのテイストをもったアクション映画だった。ミシェルは革命派の女闘士役で、黒皮のパンツにタンクトップ、機関銃を手に大暴れしていた。どうやら、この映画で彼女のイメージが決まったみたい。
『レディ・ガイ』もまた意識的にB級映画のテイストをもち、ミシェルの役どころも似たようなもの。ただしウォルター・ヒル監督の映画だけに、ひとひねりもふたひねりもして香辛料が利いている。
ひとつめのひねりは、主人公はもともと男だったのに性転換手術を施され女になってしまったとの設定。殺し屋のフランク(ミシェル・ロドリゲスが男装)は、彼が殺した男の姉で性転換手術の名医レイチェル(シガニー・ウィーバー)の罠にはめられ、復讐のため手術を施され、場末の安ホテルで気がつくと女になっている。
奇想天外な設定。ウォルター・ヒルは、共同脚本のデニス・ハミルの原案を読んだとき、これはすごいB級映画になるぞと長いこと企画を温め、フランスでグラフィック・ノベルにして刊行してもいる。元男という設定だから、ミシェルは歩き方、表情のつくり方、発声も男の演技をする。顔の包帯をはずし、手術着を脱ぐと女になっていてうろたえるシーンは倒錯的なエロティシズムを発散する。女になったフランクが、自分をこんなにしたレイチェルと、罠にはめたギャングに復讐を挑むハードボイルド・アクションがこの映画の半面。
ふたつめのひねりは、ミシェル・ロドリゲスの敵役にシガニー・ウィーバーを配したこと。シガニー・ウィーバーといえば、言うまでもなく「戦う女」のイメージをもった女優。『エイリアン』では、タンクトップにマシンガンでエイリアンに挑んだ。『レディ・ガイ』のミシェルの服装は、『エイリアン』のシガニーを下敷きにしているのではないか。シガニーは『エイリアン3』ではスキンヘッドにもなっている。この映画でも髪を男のようになでつけ、スーツにネクタイ姿にもなって、銃ではなく言葉で「戦う」。だから、この映画のミシェルとシガニーは「戦う女」の新旧女優対決といった趣きがある。
逮捕されたレイチェルは、ガレン博士(トニー・シャルーブ)の診察とカウンセリングを受ける。この部分は、シェークスピアやポーが好きで知識と教養を持ち、しかし精神に異常をきたしているかもしれないレイチェルとガレン博士の丁々発止の対話劇。単純なBムービー・アクションに終わらない。こちらの半面を面白がれるかどうかで、この映画の評価はがらりと変わってしまうだろう。
でも全体としてはアメコミのテイストで、シーンとシーンのつなぎ目がストップ・モーションでコミックの絵のようになる。そんな遊びが散りばめられた映画。ラスト、私は徐々に変化していった、とフランクの意味深な独白で終わる。女として生きる、ということか。
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