『目撃者 闇の中の瞳』 台湾の犯罪映画
Who Killed Cock Robin(viewing film)
かつて台湾映画といえば、公開されるのはホウ・シャオシェンら作家系の映画か青春映画、あるいは歴史ものくらいだった。でも最近は、ホラーとかエンタテインメント系の映画も上映されるようになっている(見てないけど)。『目撃者 闇の中の瞳(原題:目撃者)』も、犯罪・スリラー系のジャンル映画。しかも、強力な作品だ。
新聞記者のシャオチー(カイザー・チュアン)が買ったばかりの中古BMWで事故を起こす。調べると、BMWは9年前に彼が目撃した事故の事故車だった。その当て逃げ事故の犯人は捕まっていない。誤報事件を起こして新聞社を解雇されたシャオチーは元同僚のマギー(シュー・ウェイニン)と9年前の事故を調べはじめる。
シャオチーが、事故で片足を失い障害者になった被害女性のシュー(アリス・クー)を探し当てると、二人を追う何者かの影が見え隠れしはじめる。シューは何者かに襲われ監禁される。一方、逃げた加害車の持ち主はシャオチーの元上司で国会議員のチウ(クリストファー・リー)であることが分かる。事故の加害者である男女2人と被害者である男女2人がシャオチーの周囲で複雑に絡み合いはじめる。
この映画の面白いところは主人公のシャオチーが単なる探偵役ではないところ。映画が進むにつれ、シャオチー自身が事故の目撃者にとどまらず、目撃される者でもあったことが分かってくる。シャオチーといい感じになる元同僚のマギーも、逃走車の持ち主で国会議員のチウと怪しい関係にある。事故の被害者シューも、犯罪に関係していたことがわかってくる。シャオチーとマギーの探偵役(と見えた)2人が当事者になり、被害者が別の事件の犯人でもあり、最後にシャオチーが自らの動きが引き起こした誘拐監禁事件に決定的に関わってくる。
その目まぐるしく関係が入れ替わるサスペンスが見事。33歳のチェン・ウェイハオ監督はこれが長編2作目。台北の衛星都市・新北を舞台に、高速道路網を俯瞰した都市風景や、デヴィッド・リンチ風な夜の道路の描写など、これまで台湾映画では見たことがなかった。英題にマザーグースの一編を引き(Who Killed Cock Robin)、そのコマドリを何度か象徴的に登場させる。かと思うと、1箱100万円単位のものもある高級茶・東方美人茶が小道具に使われて生活感を醸し、政治の裏を見つめる社会派的な視線もある。
長谷部誠ふうな好青年のカイザー・チュアンと、時にはっとするような肉感的な表情を見せるシュー・ウェイニンが複雑な役どころを演じている。事故の被害者である若い男を演ずるのはアン・リーの息子メイソン・リーで、こちらも個性的。これまで東アジアの犯罪スリラーものといえば韓国映画が目立ったけれど、台湾映画にも新しい世代が出てきたことを実感させる映画だった。
Comments
TBありがとうございます。
善人がおらず、すごい展開でした。
誰が駒鳥を殺したのか、駒鳥は誰なのか、「それは私」と言う人はいなかったですね。
この映画を観て気になったので、東方美人茶を飲んでみました。(笑)
Posted by: すぷーきー | February 02, 2018 09:27 PM
台湾のこういいう犯罪映画ははじめてでしたが、面白く楽しみました。大陸とも香港とも違う空気感がいいですね。
東方美人茶はいかがでしたか。私も以前、台北の友人からお茶を送ってもらっていたことがあります。東方美人茶ではありませんでしたが。
Posted by: 雄 | February 03, 2018 09:39 AM