今年の映画 MY BEST 10
今年もそんなにたくさんの映画を見たわけじゃないけど、年末のお遊びとしてベスト10を選んでみました。
1 ローサは密告された
今年はフィリピン映画の秀作が多かった。手持ちカメラが夜のマニラのスラムを走りまわる、骨太な人間ドラマ。密告と憎悪の連鎖のはてに、主人公が揚げ団子をほおばり生きる意思を露わにするのが感動的。
2 バンコクナイツ
バンコクに吹きだまった「沈没組」の日本人を通して見る、この国のリアルな姿。ロードムービーふうな後半では現実がふっと宙に浮き、ありうるかもしれないアジアが見える。
3 ブレード・ランナー 2049
リドリー・スコットとドゥニ・ヴィルヌーヴが見事に融合した。前作の美学を受けつぎつつ、ヴィルヌーヴらしい不安と懐疑の映画。ラスト、砂漠のロサンゼルスに降る雪が忘れられない。
4 オン・ザ・ミルキーロード
久方ぶりに会ったクストリッツァの世界に酔う。バルカンの陽気なリズムにのせて人間も動物も、戦争も愛も、ひとつの世界に融けてゆく。50代半ばになったモニカ・ヴェルッチが美しい。
5 マンチェスター・バイ・ザ・シー
ずいぶん古風な映画だけれど、風景も人間もじわっと染みてくる。離婚した夫と妻、叔父と甥、微妙な人間関係の微妙さを見事にすくいとった。
6 パターソン
ジャームッシュ健在。内容もスタイルも、映像で描いた詩。ニュージャージーの小さな町で、何も起こらない日々が、いちばん素晴しい。
7 立ち去った女
もう一本のフィリピン映画。冤罪で服役した女性の復讐譚を長回しカメラで見せる。路上に生きる貧しい人々の肖像と、哲学的つぶやきの取り合わせが新鮮な驚き。
8 お嬢さん
植民地朝鮮の支配・被支配の関係を、官能の支配・被支配に変換してみせた。被植民者のねじれた欲望、密室の暴力と笑い、濃厚なエロティシズムがいかにもパク・チャヌク。
9 エル ELLE
パリのブルジョア社会で繰り広げられる倒錯のゲーム。冷たい表情を崩さないまま欲望とエゴイズムを露わにするイザベル・ユペールがすごい。
10 彼女の人生は間違いじゃない
主人公は福島と渋谷を往復しながら、原発事故の補償金をパチンコにつぎこむ父との暮らしと、デリヘル嬢の日々。その内面は説明されず、切実さだけが伝わる。
番外(新作ではないけれど)
台北ストーリー 台湾ニューウェーブの幕開けを告げる傑作。
リュミエール! 最初の映画にはすべてがある。
ほかにリストアップした映画は、『午後8時の訪問者』『ノクターナル・アニマルズ』『密偵』『三度目の殺人』『彼女がその名を知らない鳥たち』『夜空はいつも最高密度の青空だ』『ホワイト・バレット』『静かなる叫び』『網に囚われた男』『変魚路』といったところ。一年間、おつきあいいただいてありがとうございました。
Comments
ELLE、評判が両極端だったので敬遠しちゃったんですが、やはり観なくちゃですね...
Posted by: onscreen | January 06, 2018 11:23 AM
明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。
うわ~「ローサは密告された」が来たか!!とのっけからですみませんが、そうですよね、そうでした!私もこれを入れるべきでした!この作品の力には相当やられましたもの。
東京国際映画祭で、このメンドーサ監督に師事している監督の初長編作品「アンダーグラウンド」が上映されたのですけれど、そちらも良かったですよ。機会があれば是非ご覧になってください。
Posted by: ここなつ | January 06, 2018 05:29 PM
雄さんこんにちは。
ベスト拝見しました。
1,2,7,10は観てなくて残念です。
昨年は韓国映画をベストに入れなかったのですが、レベルが高くて面白い作品ばかりでしたね。
いつも雄さんの鑑賞リスト参考にさせていただいています。
今年もよろしくお願いします^^
Posted by: 真紅 | January 07, 2018 11:11 AM
onscreenさん、コメントありがとうございます。
「ELLE」は実に面白く見ました。好みなんです、こういう映画。日本で言えば谷崎潤一郎か江戸川乱歩の世界ですかね。
Posted by: 雄 | January 07, 2018 10:52 PM
ここなつさん、コメントありがとうございます。
去年は3本のフィリピン映画、どれも面白くて迷いました。なかでも「ローサ」でした。
「アンダーグラウンド」はここなつさんのレビューを読んで気になっていました。見る機会があるといいのですが。
Posted by: 雄 | January 07, 2018 10:55 PM
真紅さん、コメントありがとうございます。
韓国映画、「密偵」も「哭声」もよかったですね。好みからいうと「お嬢さん」でしたが。
「マンチェスター」のていねいさ、空気感も大好きです。じわーっと染みてきて、あとにのこる映画です。
真紅さんの感性にはいつも刺激を受けます。
今年もよろしくお願いします。
Posted by: 雄 | January 07, 2018 11:01 PM