山下トリオ+類家心平を聞く
このところ、若手のジャズ・プレイヤーでいちばん聞いているのがトランペットの類家心平。最初に聞いたのは菊地成孔ダブセクステットだった。このグループは1950年代マイルス・クインテットを現代化するというコンセプトなので、トランペットは当然大きくフィーチャーされる。その後、山下洋輔との共演も聞いた。菊地、山下といったごりごりの先輩ミュージシャンと対等にわたりあい、音色もすばらしい。
新宿PIT INNで「山下洋輔2DAYS」の2日目。山下トリオが1曲やった後に登場し、最初に演奏したのは「アイ・リメンバー・クリフォード」。夭折した天才トランぺッター、クリフォード・ブラウンの死を悼んでベニー・ゴルソンが作った名曲。山下が、この曲を演ろうと提案したそうだ。クリフォードの流麗な音とは正反対、フリーキーな音でのブロー。絞り出し、かすれたり、野太い音になったり。渾身のバラード。魂を揺するといえば大げさに過ぎるか。この曲はゴルソン自身の演奏をふくめたくさん聞いているけど、最上の演奏のひとつとして記憶に残るだろう。
「寿限無」など東京JAZZで聞いたナンバーだけでなく、はじめて聞いた山下ナンバーが面白かった。幻の映画音楽「幻灯辻馬車」(原作・山田風太郎。監督の岡本喜八が山下に依頼したあと亡くなった)の、ガス灯の下を馬車が駆けぬけるイメージを音にした明治の洋風リズム。ニューオリンズ・ジャズを山下ふうに取り込んだ「グルーヴィング・パレード」。9拍子でエスニックな「クルディッシュ・ダンス」。全員がめちゃくちゃにブローするイントロで、何が始まるかと思ったら「テイク・ジ・Aトレイン」のアンコールまで、楽しませてくれました。
ステージでも余裕たっぷり、サービス精神たっぷりの山下にくらべ、類家は自分の演奏が終わるとステージ中央で下を向き無表情に突っ立ったまま。目にかかる長い前髪を気怠くかきあげる姿は鬼太郎かブラック・ジャックか。いかにも音だけで勝負という姿がまたいい。
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