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November 13, 2017

『彼女がその名を知らない鳥たち』 犯罪純愛映画

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沼田まほかるの原作を読んでないのにこんなこと言うのもなんだけど、最近の若い作家や監督の小説や映画に接するとき、設定の面白さや、それをどんでん返しする驚きといった構成の技に頼ったものが多いような気がする。その手法にリアリティを持たせるのはディテールの描写だと思うけど、それが足りないと、構えだけでかくて大味な仕上がりになる。

映画の場合、設定の面白さにリアリティをもたせられるかどうかは監督と役者の腕にかかっている。今年見た映画で、うまいなあと思ったのは『エル』。『彼女がその名を知らない鳥たち』も、かなりの程度うまくいっていると思った。

冒頭、家具や衣類が散らかった団地の一室で、ソファーに寝そべりクレームの電話をかけているのは十和子(蒼井優)。その部屋の雑然とした感じや、十和子の投げやりな口調と仕草から、この映画の空気が見えてくる。15歳年上の同居人・陣治(阿部サダヲ)が建設現場の仕事を終えた格好で帰ってくる。陣治は十和子のために天ぷらうどんの夕食をつくり、入れ歯を外してシーハー言い、足指のゴミを丸めながら食べる。

2人の様子から、十和子は陣治を見下していること、陣治はそれを承知で十和子の言うなりになっていることが分かる。夜も、十和子が許さないと陣治はベッドを共にできないらしい。蒼井優と阿部サダヲがなにげないセリフのやりとりや、目線、表情で二人の関係をうまく表現してる。

やがて十和子の男関係が明らかになる。クレームをつけたデパートの店員・水島(松坂桃李)が部屋にやってきて、十和子が誘いをかけたようなかけないような微妙な雰囲気から関係が生まれる。つきあってみると、水島は3000円の時計を高級品めかして十和子に贈るような男。一方、十和子はかつて別れた黒崎(竹野内豊)が忘れられない。黒崎は借金をした叔父に十和子をあてがって帳消しにしてもらうような、恰好はいいがゲスな男。刑事が十和子の部屋にやってきて、黒崎が行方不明になっていることを告げる。陣治は十和子の男関係を怪しんで後をつけていた……。

観客が、黒崎は陣治に殺された? と疑いはじめる地下鉄のシーンでは、ちょっとした照明の当て方で下品だが善良らしい陣治の顔に悪意が浮かぶ。やがて、過去と現在の事件が明らかになる。

僕は『花とアリス』以来の蒼井優ファン。といって全部見ているわけではないけど。彼女が演ずる役柄は『百万円と苦虫女』『オーバー・フェンス』『アズミ・ハルコは行方不明』といった、エキセントリックで普通じゃない女の子の系列と、山田洋次の『東京家族』など原節子の現代版みたいな女性の系列がある。

前者のほうが当然好みで、この映画も普通じゃない女の子の系列に属する。辛い記憶は意識下に抑圧し、現在の快のみを求め、自堕落に生きる女。悪魔的なものと天使的なものを瞬間的に行き来する表情が魅力的だ。男女の絡みのシーンも、プロダクションの管理が厳しいこの国では、これはぎりぎりなんだろうな。

白石和彌監督は犯罪映画である『凶悪』が面白かった。犯罪映画であり一風変わった純愛映画(キム・ギドク『悪い男』みたいな)でもある本作も、そうした監督の資質をうかがわせる。南海電鉄とか夕陽丘とか大阪の南側を舞台にしているのも利いている。ただラスト・シーンだけは(原作にあるんだろうけど)、設定倒れのような気がした。


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Comments

こんにちは。雄さんにご覧になっていただけてうれしいです。
この映画好きで勝手に応援しているので(心の中でですが)。
私は十和子と陣治の関係に親子的なものを感じていたので、ラストシーンの陣治のセリフに納得しました。
それは今私が、男女の愛より親子の愛の方に重きを置いて生きているせいだと思いますが。
蒼井優、いいですね。一緒に呑みに行きたいタイプです。

Posted by: 真紅 | November 14, 2017 at 05:44 AM

十和子と陣治に親子の関係に近いものですか。なるほど。人によっては、この2人に谷崎潤一郎ふうなマゾ的な女性崇拝を感ずることもあるようです。その人の立ち位置によって、ずいぶん感じ方が違い、だからこそ小説や映画は面白いんですね。

この映画の蒼井優は、最近の出演作のなかではワタシ的には一番でした。

Posted by: | November 14, 2017 at 11:49 AM

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