国実マヤコ『明日も、アスペルガーで生きていく。』をいただく
かつての仕事仲間だった国実さんから初めての著書をいただいた。
アスペルガー症候群という名前を聞いたことはあっても、どんな症状のどんな病気なのかは知らなかった。アスペルガー症候群と診断され、さまざまな形の「生きづらさ」を抱えて生きる8人にじっくり話を聞き、それをもとに彼ら彼女らの物語がフィクションに仕立てられている。
「記憶する女」「こだわりの強い男」「喜ばれたい女」「婚活の終わらない男」「演じ続ける女」「愛を表現できない男」「捨てられない女」「部屋から出ない男」── 五感が過敏で、得意なことと苦手なことの差が極端に大きく、人と調和するのが苦手。それぞれの物語が短篇小説を読むようにくっきりと立ち上がる。
アスペルガー症候群はここから先が病気で、この手前は健康とはっきり線が引けるものではない。読んでいて、これは自分のことだと感ずる人も多いのではないか。フィクションの部分には、著者自身の体験も投影されているかもしれない。だけでなく、この病気の専門家に解説してもらうことで医学的な正確さも担保している。
書籍編集者をしていたとき、国実さんとは一冊だけ写真関係の文庫を一緒につくったことがある。初めて彼女の机に行ったとき目に入ったのは、ガラスの下に入れられた若尾文子の映画の一シーン。今どきの若い女性が若尾文子か、と驚いた。僕も若いときからの若尾文子ファンで、しかも作品の好みが一緒だったので、『刺青』や『清作の妻』について年齢差を忘れて盛り上がった記憶がある。そんな個性的な彼女らしさが十分に発揮された本です。
国実マヤコ『明日も、アスペルガーで生きていく。』(四六判並製、本体1,200円+税、ワニブックス刊)
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