『リュミエール!』 映画の原初の魅力
1895年、フランスのルイとオーギュストのリュミエール兄弟がシネマトグラフを発明し、最初の映画を撮影して公開した。これは評判を呼び、以後、20世紀に向かって映画は世界中で製作され人々に楽しまれるようになっていく。
『リュミエール!(原題:Lumiére!)』はリュミエール兄弟が撮影した1422本の映画のなかから108本を選んでデジタル修復したものだ。122年前、映画が発明されたその場の空気に立ち会うことができるのが素晴らしい。
当時、フィルム(35ミリ)の長さの制約から、1本の映画は50秒だった。108本が、ナレーション(僕が見たのは立川志らくの日本語版)とともに映しだされる。
最初の1本は、リュミエール工場の門から働きおえた人々が出てくる「工場の出口」。まるでキートンの喜劇みたいな「水をかけられた散水夫」。散水夫がホースで水を撒いていると、別の男がホースを踏んで水を止め、散水夫がホースの先を覗いたとたん水が噴出する。観客席に向かって走る機関車に轢かれるのではないかと観客が逃げたことで神話になった「ラ・シオタ駅への列車の到着」。機関車のアクションと質感、機関車とホームが対角線になった構図、機関車の黒と人々の白い服が対照的な光と影。映画の原初的な魅力が50秒に詰まっている。
これらはクラシックとして僕も見た記憶があるけれど、見たこともない映像が次から次に出てくる。舟の進水式を真横から撮った1本は、手前と向こう岸で見守る人々の間を、ものすごい質量を感じさせる船が左から右へ移動する。僕は『スター・ウォーズ』第1作の冒頭を思い出した。ニューヨークの街路を撮影した、石造ビル群と路面電車。マルセイユの市街。ベトナムで貧しい子どもたちにお菓子をばらまくフランス女性や、アヘンを吸ってごろんとする中国人など植民地時代の風景もある。
写っているものだけでなく、手法もいろいろ。ヴェネツィアの運河の移動撮影。カッターにカメラを乗せての撮影は、船が波に揺れるので手持ちで撮っているように見える。後退するカメラをベトナムの少女が追ってくるショット(車に乗せて撮影?)も手持ちのような効果を出してリアル。それだけでなく、すべて演出の作品もある。ノンフィクションふうなフィクション。
映画を初めて見た人間の驚きを追体験できる。いやー、面白かった。
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