« 浦和ご近所探索・見沼天然温泉 | Main | 「拝啓つげ義春様」展へ »

October 13, 2017

『あゝ、荒野(前篇)』 新宿の過去・未来

Photo

熱い日本映画を久しぶりに見た。

寺山修司の『あゝ、荒野』が刊行されたのは1966年。小説の舞台になる新宿の街は若いエネルギーをためこんで発火寸前の状態にあった。翌67年にはアメリカ西海岸のヒッピー運動を受けたフーテンが新宿駅前広場に姿を現し、68年、新左翼のベトナム反戦「武装闘争」が新宿駅と一帯を占拠して騒乱罪が適用される。69年には西口広場に集まったフォークゲリラが機動隊と衝突した。花園神社では状況劇場(赤テント)がアンダーグラウンド演劇を上演し、ピット・インでは山下洋輔トリオが過激な前衛ジャズを演奏していた。渋谷を拠点にしていた寺山修司の劇団・天井桟敷は唐十郎の状況劇場と乱闘を繰り広げ、寺山も唐も逮捕された。そういう時代だったのだ。

映画『あゝ、荒野』は、東京オリンピックが終わった2021年の未来の新宿に設定を移している。オリンピックのから騒ぎも終わり、世の中は不景気らしい。歌舞伎町では、テロだかなんだか爆発騒ぎが起きている。少年院育ちの新次(菅田将暉)はオレオレ詐欺グループの一員で、刑務所から出所してきたばかり。グループに戻るか、離れるか、迷っている。建二(ヤン・イクチュン)は朝鮮人とのハーフで床屋で働くが、吃音に悩んでいる。居場所のない二人は新宿の裏町でボクシング・ジムを経営する堀口(ユースケ・サンタマリア)の誘いを受けて入門し、ジムに住み込むことになる。

新宿という「ネオンの荒野」をさまよう二人の青年が、孤独な魂を燃焼させるようにトレーニングにはげむ。年上の建二が若い新次を兄を慕うような目で見る。そんな二人に、新宿に流れてきたいろんな男と女がからむ。新次には、ラーメン屋で働きながら男をホテルへ誘っては金を盗むことを繰り返す芳子(木下あかり)という恋人ができる。芳子は東日本大震災で被災し、やはり身体を売っていた母と別れ上京してきた。幼い新次を捨てた母・京子(木村多江)は、ボクシング・ジムのパトロンである実業家の秘書(愛人)になっている。建二の父は元自衛官で、ホームレスになっている。自殺防止を名目に自殺法を研究する大学生グループ(原作では早稲田大学自殺研究会)も出てくる。

寺山修司の原作は寺山言語とも言うべきフレーズの奔流と歌謡曲や詩の引用、大衆小説めいた親子の因果物語、章の冒頭には自作の短歌を掲げ、いかにも1960年代ふうな実験小説。あまりにも時代に寄り添いすぎ、寺山ファンには楽しめても決して出来のいいものではなかったと記憶する。この小説の面白さを実感できるのは、おそらく団塊以上の世代だろう。その原作を、いかに今の若者に届くものにできるか。孤独な魂はいつの時代にもいる。自分を変えたいと願う青年もいつの時代にもいる。二人の姿に原作を超えた今日性を持たせられるか。映画の出来はその一点にかかっている。

前編を見るかぎり、その試みは成功していると思う。菅田将暉は自分のまわりすべてを憎み、饒舌に突っかかる。ヤン・イクチュンは韓国映画『息もできない』とは正反対、内向的で自分に閉じこもる。ノートに書くスケッチと言葉だけが自分を表現する場。二人がそれぞれ自分を変えようともがく。ボクシング・シーンは得てして劇画調になりがちだけど、二人ともきちんとトレーニングして役づくりしたのがわかる。木下あかりがからむセックス・シーンも、かつての日活ロマンポルノの雰囲気。ユースケ・サンタマリアも、いい味を出してる。加えて、新宿にはゴールデン街やモルタルアパートなど1960年代からつづく風景が残っている。新宿でロケしているのが何よりの強み。

1960年代風の懐かしさと2010年代の社会意識を持ったエンタテインメント。前篇は二人がデビュー戦でリングに上がるまで。後篇は当然、二人が対決することになるだろう。楽しみだ。監督はテレビマン・ユニオン出身の岸善幸。細かくカット割りせずドキュメンタリーのような風合いがいい。


|

« 浦和ご近所探索・見沼天然温泉 | Main | 「拝啓つげ義春様」展へ »

Comments

こんにちは。コメント&TBありがとうございました。
この映画を観たとき、何となく「雄さんがお好きなんじゃないかな」と思いました。マジで。
レビューが読めてうれしいです^^
昭和な雰囲気と、数年後の現代とを上手くミックスさせてるなぁと思いました。
それとも、新宿っていう街があまり変わっていないのかな?
大学名は「西北大学」になってましたね(笑)。
後篇、万難を排して観に行かねば!

Posted by: 真紅 | October 14, 2017 at 11:33 PM

新宿の街は一歩裏へ入りこめばまだ昭和の空気が残っていますね。60~70年代のエネルギーはありませんが。

私の持っている「あゝ、荒野」は写真家・森山大道が撮った新宿の写真と寺山の小説が半分半分のPARCO出版版です。当時の新宿の空気がびんびん伝わってきます。

Posted by: | October 15, 2017 at 11:50 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/41136/65904807

Listed below are links to weblogs that reference 『あゝ、荒野(前篇)』 新宿の過去・未来:

» 『あゝ、荒野 前篇』 [真紅のthinkingdays]
 東京オリンピックの翌年、震災から10年後の東京・新宿。少年院から出所したばかりの 新次(菅田将暉)は、自分を裏切った元仲間を襲い、返り討ちに遭う。そこに居合わせた 理髪師の建二(ヤン・イクチュン)とともに、新次は元ボクサーの堀口(ユースケ・サンタ マリア)が営む歌舞伎町のボクシングジムでトレーニングを始める。  寺山修二が遺した唯一の長編小説(未読です)を、今を時めく菅田将...... [Read More]

Tracked on October 14, 2017 at 11:22 PM

» あゝ、荒野 前篇★★★・5 [パピとママ映画のblog]
「二重生活」の岸善幸監督が寺山修司の同名小説を「溺れるナイフ」の菅田将暉と「息もできない」のヤン・イクチュンを主演に迎え映画化した大作青春ドラマ。劇場公開に際しては前後篇に分けて上映。本作はその前篇。2020年の東京オリンピック後を舞台に、運命的に出会い、それぞれの思いを胸にプロボクサーを目指して突き進む2人の若者の絆と宿命を、彼らを取り巻く人々との人間模様と共に綴る。 あらすじ:2021年。少年院に入っていたことのある沢村新次(菅田将暉)は、昔の仲間でボクサーの山本裕二(山田裕貴)を、兄貴分... [Read More]

Tracked on October 22, 2017 at 07:37 PM

« 浦和ご近所探索・見沼天然温泉 | Main | 「拝啓つげ義春様」展へ »