« 宮崎学・小原真史『森の探偵』を読む | Main | 『三度目の殺人』 三度目に殺したのは誰? »

September 25, 2017

『パターソン』 映像で詩を書く

Paterson2
Paterson(viewing film)

『パターソン(原題:Paterson)』を見ていて、やたらに双子が出てくるのが目についた。これって何なんだろう?

主人公はニュージャージー州パターソンに住むバス運転手のパターソン(アダム・ドライバー)。彼は密かにノートに詩を書きためている。パターソンが朝、歩いて仕事場に向かう途中、道のベンチに老いた双子の兄弟が同じ服を着て談笑している。バスを運転していると、乗客には双子の少女がいる。仕事を終えて帰る途中、詩を書いている少女に出会うが、彼女もまた双子のかたわれ。

パターソンは、この町が生んだアメリカを代表する詩人、ウィリアム・カルロス・ウィリアムズが好きで、彼のぶ厚い初期詩集を愛読している。テキスタイルデザイナーの妻・ローラ(ゴルシフラ・ファラハニ)が朝の会話で、ウィリアムをカルロス・ウィリアム・カルロスと名と姓をひっくり返し、他愛ない冗談に夫婦で笑う。ウィリアム-ウィリアムズをカルロス-カルロスにして言葉遊びを楽しんでいる。パターソンに住むパターソンも、パターソン-パターソンということになる。

そうか。何度も出てくる双子は、同じ言葉の重なりを面白がる感覚を映像に移したんだな。パターソン-パターソンの言葉の重複も、同じ服を来た双子の姿も、どこか微笑をさそうおかしみを湛えている。そんなあたりから、この映画の主題が見えてくる。ジム・ジャームッシュは映像で詩を描いてみようとしたんじゃないか。

この映画は、ちゃんと韻も踏んでいる。月曜日から一週間の物語だけれど、月曜日から次の月曜日まで、一日の始まりは決まって夫婦がベッドで寝ているのを上から俯瞰する同じショット。パターソンが枕元の腕時計を見ると日によって6時10分だったり15分だったり。ローラと言葉を交わしたり交わさなかったり、ローラがシーツに首までくるまっていたり、美しい背中を見せていたり、日によって微妙にショットが異なる。

韻を踏みながら、映像を少しずつ変奏させてゆく。それはパターソンが詩を書くスタイルに同期している。パターソンが書きとめる詩は、ごく日常的な題材や記憶を材料にしている。例えばこんな感じ(詩はロン・パジェットがこの映画のために書いた)。スクリーンに、パターソンの手書きの文字が映しだされる。

When you’re a child/you learn/there are three dimensions:/height, width, and depth./Like a shoebox./Then later you hear/there’s a fourth dimension:/time./Hmm./Then some say/there can be five, six, seven… /I knock off work, /have a beer /at the bar./I look down at the glass/and feel glad.(PBS NEWSHOUR

パターソンは毎日決まった時間に起き、ニュージャージー・トランジット社パターソン23番ルートのバスを運転し、昼休みにはお気に入りの滝が見える公園で弁当を食べ、仕事が終わると家に帰って愛犬マーヴィンの散歩に出て、アフリカ系老人が経営するバーでビールを一杯だけ飲む。ローラがつくったケーキがオープンマーケットで200ドルを売り上げ喜んだり、バーで別れ話の男女のトラブルに巻き込まれたり、その日、その日、誰にでもあるような小さな出来事がある。なにしろこの映画の最大の事件は、マーヴィンがパターソンの詩作ノートを食いちぎってしまうことくらい。パターソンは「I hate you.」と一言だけ言ってマーヴィンを許す。パターソンの日々から滲みでる詩と映像とが一体になっている。

ローラがデザインする、白黒の丸や波形を使ったカーテンや服のデザインが繰り返し出てくるのもまた、この映画にヴィジュアルな韻を与えている。穏やかな夫婦の日々が、そのまま美しい。

最後に永瀬正敏が日本から来た詩人として、おいしい役どころで登場。ローラのゴルシフラ・ファラハニはどこかで見た顔だと思ったら、イラン映画『彼女が消えた浜辺』に出ていた。ジャームッシュは若い頃は『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のタイトルのようにストレンジな味を好んだけれど、年をとるにつれ普通(オーディナリー)のなかに映画の題材を見つけるようになった。ニュージャージーの、ニューヨークから十数キロに位置する取りたてて特徴のない町の風景も素敵だ。


|

« 宮崎学・小原真史『森の探偵』を読む | Main | 『三度目の殺人』 三度目に殺したのは誰? »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 『パターソン』 映像で詩を書く:

» 【映画】『パターソン』シンプルな日常が愛しいと思える映画 [アリスのさすらい映画館]
パターソン(2016)アメリカ 原題:Paterrson 監督:ジム・ジャームッシュ 出演:アダム・ドライバー/ ゴルシフテ・ファラハニ /バリー・シャバカ・ヘンリー /クリフ・スミス /チェイセン・ハーモン ウィリアム・ジャクソン・ハーパー /永瀬正敏 【あらすじ】 ニュージャージー州パターソン。町名と同じ名前のバス運転手パターソンは代わり映えしない毎日ながら...... [Read More]

Tracked on September 25, 2017 12:59 PM

» "a-ha"『パターソン(Patterson)』ジム・ジャームッシュ監督、アダム・ドライヴァー、ゴルシフテ・ファラハニ、永瀬正敏、ネリー(ブルドッグ) 、他 [映画雑記・COLOR of CINEMA]
『パターソン』Patterson監督 : ジム・ジャームッシュ出演 : アダム・ドライヴァーゴルシフテ・ファラハニ永瀬正敏ネリー(ブルドッグ)、他物語・ニュージャージー州パターソンでバスの運転手をして... [Read More]

Tracked on September 25, 2017 02:07 PM

» 『パターソン』 a-ha? [映画批評的妄想覚え書き/日々是口実]
 監督・脚本は『ストレンジャー・ザン・パラダイス』などのジム・ジャームッシュ。  ゲスト的な出演だけれど「a-ha?」というよくわからない相槌でおいしいところを持っていくのは、『ミステリー・トレイン』以来のジャームッシュ作品出演となる永瀬正敏。  舞台はニュージャージー州パターソン。その町と同じ名前の主人公パターソン(アダム・ドライバー)はバスのドライバーをしている。この作品...... [Read More]

Tracked on September 25, 2017 06:13 PM

» パターソン [映画的・絵画的・音楽的]
 『パターソン』をヒューマントラストシネマ渋谷で見ました。 (1)予告編で見て良さそうだなと思い、映画館に行ってみました。  本作(注1)の冒頭では、「月曜日」の字幕が映し出され、主人公のパターソン(アダム・ドライバー)とその妻・ローラ(ゴルシフテ・ファラ...... [Read More]

Tracked on September 25, 2017 07:40 PM

» 「パターソン」:「ツイン・ピークス」との符合も [大江戸時夫の東京温度]
映画『パターソン』は、ジム・ジャームッシュが初期の作風に回帰したかのような、ゆっ [Read More]

Tracked on September 25, 2017 10:23 PM

» 映画:パターソン Paterson 平凡な日常に潜む、ちょっとした 幸せ や 変化、をじんわりと味わう(笑) [日々 是 変化ナリ ~ DAYS OF STRUGGLE ~]
前作「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」がやっとやっと久々に面白かった(笑)ジム・ジャームッシュの新作。 今作は前作の吸血鬼な派手さはなく、一つ間違えると大駄作化しかねない展開(汗) プロットは何処?というほど何も起こらない(笑) ん...... [Read More]

Tracked on October 03, 2017 06:49 AM

» パターソン★★★ [パピとママ映画のblog]
『ブロークン・フラワーズ』などのジム・ジャームッシュが監督を務め、『沈黙 −サイレンス−』などのアダム・ドライヴァーが主人公を演じたドラマ。詩をつづるバスの運転手の日常を映し出す。共演は『彼女が消えた浜辺』などのゴルシフテ・ファラハニや、ジャームッシュ監...... [Read More]

Tracked on October 10, 2017 07:59 PM

« 宮崎学・小原真史『森の探偵』を読む | Main | 『三度目の殺人』 三度目に殺したのは誰? »