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September 20, 2017

宮崎学・小原真史『森の探偵』を読む

Morino_miyzaki

宮崎学・小原真史『森の探偵』(亜紀書房)の感想をブック・ナビにアップしました。

http://www.book-navi.com/


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September 18, 2017

『ダンケルク』 逃げまどう戦争映画

Dunkirk
Dunkirk(viewing film)

クリストファー・ノーラン監督の映画は時間と空間の描き方が直線的でなく、独得にねじれている作品が多い。

『メメント』は、脳に傷を負って記憶が10分しか保てない男が、自分の行動をメモ書きしたり身体に刺青として刻みこんだりしながら追いつ追われつするサスペンスだった。同じ時間が何度も繰り返され、円環する感覚が新鮮だった(このインディペンデント系の長編2作目が評価され、ミステリアスな『インソムニア』を経て『バットマン ビギンズ』に抜擢される)。『インターステラー』は太陽系のワームホールを通って別の銀河系に行き、時間と空間がニュートン力学とは別の仕方でつながっている世界を描いた。

『ダンケルク』の面白さは、陸海空の戦いがそれぞれ別の時間軸で描かれていることだろう。陸の戦いは、ドイツ軍にダンケルクの海岸に追い詰められた英仏軍が、大きな犠牲を出しながらも撤退する1カ月を描く。海の戦いは、撤退する兵を乗せた輸送船が独空軍によって撃沈されるなか、徴用されたイギリスの民間船がダンケルクに救助に向かう最後の1週間を描く。空の戦いは、英仏の輸送船を狙う独空軍に対して攻撃を仕掛ける英空軍戦闘機3機の最後の1時間の戦闘を描く。1カ月と1週間と1時間の戦いが入れ子状になって1本の映画になり、最後に3つの時間が合体して終わる。

それぞれの戦いに主人公がいる。陸の戦いは英軍兵士のトミー(フィオン・ホワイトヘッド)。戦いといっても、独軍に攻撃されて銃を捨てて逃げ、ダンケルクの海岸でも独軍戦闘機に掃射され、別の隊にまぎれこんで乗った輸送船も独戦闘機に攻撃されて沈没し命からがら海岸に舞い戻りといった具合で、ただ逃げまどうだけ。桟橋の下に隠れて救助の輸送船に潜り込んだり、兵士としての規律を失ってしまったようにも見える。

海の戦いの主人公は観光船ムーンライトの船長・ドーソン(マーク・ライランス)。息子と息子の友達を乗せて、徴用された多くの民間船とともにダンケルクに向かう。海上で救助したショック状態の英兵(キリアン・マーフィー)は、ムーンライトがダンケルクに向かうと聞いて、英本土に戻れと暴れる。船長はダンケルクに行く訳をこう説明する。「自分たちの世代が戦争を始めた。でも息子たちの世代を戦場にやってしまった」。

空の戦いは戦闘機スピットファイアのパイロット・ファリア(トム・ハーディ)。ダンケルクへ出撃したのは3機。1機だけ残り、本国へ帰投する燃料がなくなってもなお独戦闘機と戦い、独機を海に沈めた後、燃料切れでダンケルク海岸に不時着して独軍の捕虜となる。空中戦や駆逐艦の脇をスピットファイアが飛ぶシーンなど、すべてCGでなく実写。飛行できるスピットファイアを飛ばしたというからすごい(65ミリのIMAXで撮影されているが、日本公開は35ミリ版。大スクリーンで見たらどんな感じだろう)。ファリアはずっと防風眼鏡をかけているので、最後に機体から離れるまでトム・ハーディとわからなかった(笑)。

この陸海空の1カ月と1週間と1時間のドラマが時間を行ったり来たりして描かれる。もっとも、それぞれのパートのなかで時間は順を追って進むので、そうと分かれば混乱はない。3つのパートが重なる最後の1時間、兵士のトミーは既に英国に帰り、列車に乗っている。逃げ回ってばかりいたトミーだが、駅のホームにかけつけた住民から、「生きて帰ってきただけでよい」と声をかけられる。一方、最後にトム・ハーディが格好良く愛機に火をつけ捕虜になるあたりは、いくら負け戦の撤退戦とはいえ、ヒーローがいないと映画が終らないんだろう。

でも、いちばん感情移入できたのは不甲斐ない兵士のトミーだった。身を隠す場所もない海岸で戦闘機の機銃掃射や爆撃を受け、別の隊にまぎれこんで乗った駆逐艦は爆撃され船室が浸水して溺れそうになり、再びダンケルク海岸に戻って干潮で座礁した船倉に隠れたところを銃撃される。兵士というより普通の人間に戻り、殺される恐怖にさらされるのがなんともリアル。『プライベート・ライアン』から『ハクソー・リッジ』まで、すさまじい戦闘シーンを売りものにした映画は多いけど、殺される恐怖をこんなふうに描いた戦争映画は負け戦だからこそかも。

セリフは最小限に抑えられ、そのかわりハンス・ジマーの音楽が負け戦にふさわしい(?)恐怖感をあおる。

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September 14, 2017

『散歩する侵略者』 観念的台詞とB級テイストの映像

Photo
Before We Vanish(viewing film)

黒沢清監督の映画に通底する特徴は、それが彼の映画のいちばんの魅力だと思うけど、「不穏な空気」とでも呼べるものじゃないかな。

ホラーでも、スリラーでも、黒沢清はおどろおどろしい仕掛けを好まない。ごく当たり前の日常がある瞬間、なにかをきっかけに「不穏な空気」が充満する場に変貌し、それが恐怖や不安を引き起こす。でも『散歩する侵略者』には、それがないように見える。

この映画はホラーでもスリラーでもなく、SF。SFといえば、街や人の服装が未来ふうなのが普通だろうけど、いま現在のこの国の風景のなかに宇宙人が人の形を借りて侵略してきたという設定。つまり普通じゃないSFをつくろうとしている。日常の風景と宇宙人の侵略という設定の齟齬を、映画としてどう処理するのか、それが観客にどう受けいれられるか。今まで見たこともない作品と評価されるのか、絵空事みたいに感じられるのか。

宇宙人に乗っ取られたのは真治(松田龍平)。夫のおかしな言動に妻の鳴海(長澤まさみ)は戸惑う。宇宙人は乗っ取った人間から「家族」「仕事」といった概念を奪ってゆく。真治は鳴海と家族を構成していることを忘れ、仕事を忘れ、ただふらふら歩きまわるだけ。

一方、週刊誌記者の桜井(長谷川博己)は一家惨殺の殺人現場で少年の天野(高杉真宇)に声をかけられる。天野と、家族を殺した娘のあきら(恒松祐里)もまた宇宙人だった。桜井は天野とあきらが宇宙人であり、地球を侵略する偵察をしていると聞き、2人と行動を共にする。2人が、もう1人の宇宙人である真治と連絡を取り、故郷の星に通信すると侵略が始まる。

『散歩する侵略者』はもともと前川知大作の舞台劇。宇宙人が人間から概念を奪うという設定も、ここから来ている。舞台劇なら、観念的な設定や台詞も観客ははじめからそういうものと思っているから違和感を感じない。でも映画の場合、よほど周到なカメラと演技とともにでないと、観念的な台詞とリアルな映像とが齟齬を来しお尻がこそばゆくなって落ち着かない。去年見た『ふきげんな過去』もそうだった。

黒沢清監督は、その観念的な台詞に対して、アメリカの宇宙侵略ものB級映画みたいな映像をつけた。金をかけないチープ(に見える)テイストと、唐突というか、おざなり(に見える)展開。それを、あえてやっているように見える。

「家族」や「仕事」そして「愛」の概念を奪われた松田龍平と長澤まさみの夫婦が、もう一度ゼロから愛をつくりなおしていく物語。うまく映画的に処理すれば、黒沢監督得意のサスペンスや、『岸辺の旅』のようなテイストの映画にもなりえたと思う。でも監督はあえて観念的セリフとB級映画ふうな映像を組み合わせたように感ずる。

「不穏な空気」も、最後に宇宙人が襲来するところでちらっと見せるだけ。いつもの黒沢映画の面白さは感じられなかった。期待していただけに残念。


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September 08, 2017

『エル ELLE』 倒錯した精神性

Elle
Elle(viewing film)

ポール・ヴァーホーヴェン監督の悪女ものといえば、どうしたって『氷の微笑』を思い出してしまう。でも『エル(原題:Elle)』は、面白さでもサスペンスでも変態度でも『氷の微笑』より一回り上。『氷の微笑』がハリウッド製エンタテインメントだったとすれば、『エル』はエンタテインメントでありつつ作家性を感じさせる作品になっている。その理由は、ヒロインがただの悪女でなく、その生き方から倒錯した精神性が匂ってくるからだろう。

冒頭、暗闇のなかで鋭くガラスが割れる音がする。画面が明るくなると、いきなりショッキングなレイプ・シーン。パリの高級住宅地に住むミシェル(イザベル・ユペール)がダイニング・ルームで黒覆面の暴漢に襲われている。暴漢が去った後、ミシェルは事もなげに割れたグラスを集めて捨てる。その冷静さが普通ではない。

場面が変わるとミシェルの仕事場。彼女はゲーム会社の社長をやっている。若いスタッフが開発中のゲーム(モンスターが女性を襲う)に、ミシェルは冷たくダメを出す。スタッフには権力者であるミシェルへの反感が感じられる。ミシェルは元夫のリシャール(シャルル・ベルリング)、共同経営者のアンナ(アンヌ・コンシニ)、アンナの夫のロベール(ミシェルは彼と不倫の関係にある)と食事しながら、暴行されたこと、警察へは届けないことを告げて、「これ以上何も言わないで」と、すぐに話を切り上げる。

映画の前半は犯人捜しのサスペンス。レイプ犯はどうやらミシェルの知る人間らしい。自宅の近所には怪しげな人物が出没している。ミシェルは向かいに住むパトリック(ロラン・ラフィット)と、敬虔なカソリックであるレベッカ(ヴィルシニー・エフィラ)の夫婦と親しくなる。ミシェルはパトリックに惹かれたらしく、食事に招いた席のテーブルの下で彼に足を絡ませ誘惑する。

会社では、開発中のゲームでレイプされる女性にミシェルの顔を張りつけた動画がスタッフ全員に送信される。ミシェルは実直そうなスタッフに犯人捜しを命ずる。そんな事件と並行して、ミシェルの過去が明らかになってくる。ミシェルの父はかつて何人もの子どもを惨殺し無期懲役で服役中。少女だったミシェルも現場にいた。

ほかにも、ミシェル名義のアパートに暮らす厚化粧の母親と、若いアフリカ系の愛人。マザコンの息子・ヴァンサンと、妊娠した恋人(ミシェルとは互いに嫌いあっている)。ひと癖もふた癖もある人物が次々に出てくる。たくさんの登場人物を、短い描写のなかでキャラを立たせるのはさすが。

映画の中盤で、暴漢が再びミシェルを襲う。ミシェルはナイフで抵抗し、暴漢の覆面をはぎ取ってそれが誰であるかを知る。ここからは、その男とミシェルの倒錯したゲームが始まる。

襲われても、敵意に直面しても、嬉しいときも、ほとんどクールな表情を崩さないイザベル・ユペールがすごい。犯罪者の子どもから成り上がったパリのブルジョア。冷たい表情と裏腹に欲望とエゴイズムを隠さず、相手を傷つけることを何とも思わないミシェルに嫌悪を感ずる観客もいるだろうけど(隣に座っていたカップルは途中で出ていった)、ここまで徹底すると、すげえなあ、という気にもなってくる。ヨーロッパの個人主義の窮極の、しかし倒錯した形のようにも見えてくる。

ミシェルだけでなく、彼女をとりまく10人近い登場人物の誰もが、ミシェルほどでないにしても欲望とエゴイズムに支配されている。どの人物にもセリフや行動の端々に伏線が仕掛けられていて、なるほどと納得させられてしまう。ただ一人善人と見えた敬虔なカソリックのレベッカも、最後のセリフでそうでなかったことが明らかになり、うーん、やられましたと言うしかない。

ヒロインの存在だけでなく、スキャンダラスでモラルに反する描写を嫌う人も多いだろうけど、僕はこの映画、気に入った。


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September 02, 2017

東京ジャズ・フェスティバル

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The 16th Tokyo Jazz Festival

東京ジャズ・フェスティバルへ。2日午後のNHKホール。

山下洋輔 寿限無2017。山下トリオ<坂井紅介(b)、小笠原拓海(ds)>+ゲストで、1980年代のアルバム「寿限無」を再現。ゲストは1曲目・類家心平(tp)、2曲目・渡辺香津美(g)、3曲目・類家+菊池成孔(as)、4曲目の「寿限無」は全員にラップのOMSBが加わって大盛り上がり。豪華メンバーだが、若い類家のトランペットにしびれる。

ゴーゴー・ペンギン。英国のマンチェスターから来たピアノ・トリオ。テーマをテクノふうなリズムに乗せて延々と変奏する。モダン・ジャズで育った小生には退屈。

THE COREA / GADD BAND。チック・コリア、スティーブ・ガッドのリターン・トゥ・フォーエバーに若いメンバーが加わって。最後に「リターン・トゥ・フォーエバー」を演奏したのが懐かしくて。

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NHKホール外の屋外ステージでも演奏が。


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September 01, 2017

裏磐梯・五色温泉へ

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福島県の裏磐梯・五色温泉に行ってきた。無色透明・無味無臭の温泉。ぬめぬめ、あるいはすべすべ感も少なく、言われなければ温泉と分からないかも。でも、あったまります。ナトリウム・カルシウム─硫酸塩・塩化物温泉。

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秋雨前線に台風と、ぐずぐずした天気。昼間は半袖で過ごせるけど、朝晩は寒いくらいだ。磐梯山の東にある白布山にも雲が次々に湧いては流れていく。

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コバルトブルーの毘沙門池を歩く。

磐梯山は明治22年に噴火して山体崩壊を起こし、500人近い犠牲者を出した。土石流が長瀬川をせきとめ、裏磐梯に300以上の湖沼をつくった。毘沙門沼もそのひとつ。近代になって生まれた新しい風景なんだ。

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近くの木にニホンザルがいて、赤い実を食べている。人を見ても逃げる様子はない。全国でニホンザル(野生動物)が増えているというニュースを実感。

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諸橋近代美術館で「ダリの美食学」展を見る。裏磐梯にダリを300点以上所蔵する美術館があるとは知らなかった。オーナーは福島県でスポーツ用品チェーンを経営する人。日本人好みの印象派でなくダリ好きというのがいい。

食をテーマに70点以上の油絵、リトグラフ、彫刻を展示。ダリの妄想世界がよくわかる。思わぬ場所で充実した展示を楽しんだ。

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