『ローサは密告された』 フィリピン映画に圧倒される
いま、フィリピン映画が熱い。カンヌやヴェネツィア、ベルリンといった主要な映画祭で次々に賞を取っている。そのトップランナーが『ローサは密告された(原題:Ma'Rosa)』のブリランテ・メンドーサ監督。『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』(2009)と『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』(2012)の2本を見たが、ドキュメンタリー的な手法でフィリピンが抱える問題を描き出す。社会派っぽい素材だけれど、骨太な人間ドラマだと思う。
この映画の舞台はマニラのスラム。ばら売りの雑貨屋を営むローサ(ジャクリン・ホセ)は、乏しい収入を補うため「アイス」と呼ばれる覚醒剤も売っている。亭主のネストール(フリオ・ディアス)はその覚醒剤にはまり、店はローサが切りまわす。2人の息子と2人の娘がいる。ある晩、警察がやってきてローサ夫妻は逮捕される。正式な逮捕ではなく、警察署内の別の部屋に連れ込まれ、20万ペソ(約44万円)で見逃してやると言われるのだが……。
照明なし、手持ちカメラの撮影が圧倒的だ。大部分が夜の撮影だけど、デジタルカメラを駆使して現場の灯りだけで撮影されている。登場人物とともに激しく雨の降るスラムを歩き回り、室内は電灯だったり蛍光灯だったりで画面の色合いが変わり、十分な明るさがないので被写界深度が浅く、ピントが手前から奥に移動したり、車のなかでも人物の顔にクローズアップしたり、まるきりドキュメンタリーを見ているリアルさだ。
夫妻に20万ペソもの金はなく、覚醒剤の売人を警察に売る。売人も別室に連れ込まれて金を求められるが、別の警官に連絡しようとして暴行される。その脇では警官たちが酒盛りをしている。ローサの子供たちがやってきて、金策に走り回る。スラムの不良グループの一員らしい長男はテレビを売ろうとする。次男はゲイの知り合いに自分の身体を売って金をつくる。長女は、不仲の親戚に行って罵言を浴びながら、わずかな金を借りる。
ローサを密告したのは、長男の弟分のチンピラだった。弟分は、逮捕された家族を見逃してもらうためにローサを売った。ローサは売人を売る。一方、ローサを逮捕した警官は没収した現金の一部を警察署長に上納する。正規の手続きなしで逮捕し金を要求する警官の腐敗もまた常態化しているのだ。スラムと地域の警察を舞台に、麻薬を巡る非正規逮捕─金の要求─密告の連鎖。末端の警官もまたわずかな給料(日本円で月給2~3万らしい)で、スラムの住民から金を巻き上げている。そのやりきれなさを、手持ちカメラはぶっきらぼうに、思い入れなしで映しだしてゆく。
最後、金策のために警察を出ることを許されたローサが、金のメドもつき、スラムの屋台で魚すり身の揚げ団子をほおばる。クローズアップされた無表情の陰に、生きる意志がみなぎる。
主演のジャクリン・ホセは今年のカンヌ映画祭で主演女優賞を得た。


Comments
こんにちは、ここなつです。
私もラストのローサの表情に、漲る意思を感じました。どうしたってこの街で生きていくのだから、やるだけやっていこうというような。
しかし本当にドキュメンタリーと見まごうばかりの映像でしたね。
Posted by: ここなつ | August 08, 2017 01:34 PM
不正警官を含め登場人物の誰もが生きるのに精一杯なのに胸が詰まります。
デジタル機材の進化によってこういうタッチの映画ができたのだと思います。機材が何を使ったのか、調べても分かりませんでしたが、ずいぶん小さなカメラのようですね。
Posted by: 雄 | August 09, 2017 11:45 AM