『ダイ・ビューティフル』 生の肯定と色の氾濫
夏から秋にかけて、フィリピン映画が3本たてつづけに公開される。こんなこと初めてじゃないかな。いま公開中の『ローサは密告された』(8月7日ブログ参照)、10月に公開される『立ち去った女』、そしてこの『ダイ・ビューティフル(原題:Die Beautiful)』。『ローサ』はドキュメント・タッチのリアリズム、『立ち去った女』は評判によるとアート系、『ダイ・ビューティフル』はエンタテインメント色のある正統派とバラエティーも豊か。各国の映画祭で注目されているのも納得できる。
この映画のヒーロー(ヒロイン)は性同一障害のパトリック(パオロ・バレステロス)。障害を自覚した高校時代から、トリシャと名を変え女性として生き、早すぎる死を迎えるまでを、時を自在に行き来しながら描く。ジュン・ロブレス・ラナ監督の円熟した物語の才に驚く。
高校以来の性同一障害同士の友人(恋人)としてトリシャとともに生きるのがバーブ(クリスチャン・ハブレス)。この男優2人の異性装がとにかく美しい。映画が始まってすぐ、ゲイのミスコンテストに念願かなって優勝したトリシャが突然死してしまう。2人はメイクアップで生計を立てていたが、美しく死にたいというトリシャの遺言でバーブは葬式までの7日間、日替わりでトリシャの遺体にメイクをほどこす。アンジェリーナ・ジョリーだったり、ビヨンセだったり、ジュリア・ロバーツだったり。なかでもアンジェリーナ・ジョリーは絶品。
葬儀の1週間が進行するのに並行して、過去が回想される。ゲイであることを隠さずバーブと組む高校時代。憧れのバスケット部員と仲間に犯される体験。家の体面を汚すと怒る父親との対立、家を出る決断。トリシャと名前を変え、バーブとともに各地のゲイ・コンテストで金を稼ぐドサ回りの日々。乳房をつくる手術を受け、養女をもらって「母」になる。
画面にはさまざまな色が氾濫している。クローズアップされるメイク道具のパレットやリップスティック。女になったトリシャのピンク壁の部屋。ミスコンテストに着る金銀ラメの光る衣装。トリシャの棺を囲む色とりどりの花(造花?)。ドサ回りで訪れる町の市場や店の色彩。はじめから終わりまで、きらびやかでチープな色で満たされ、それがこの映画の基調になっている。
『ローサは密告された』のブリランテ・メンドーサ監督の映画はマニラの歓楽街やスラムを舞台に、色彩も沈んだトーンで統一されているけれど、この映画の色彩はトリシャとバーブの迷いのない生き方を反映して全体に明るい。監督と美術、キャメラマンの緻密な設計によるものだろう。
ストーリーは定番である「コンテストもの」のヴァリエーションだけど、その枠組みを借りて、トランスジェンダーとして生きた一人の男の生と性を力強く肯定してみせたところに真骨頂がある。
Comments
こんにちは。
弊ブログにTBをありがとうございました。
私はこの作品を昨年の東京国際映画祭で鑑賞したのですが、監督の情熱と意思が強く感じられる作品で、感動しました。もちろん、役者の素晴らしさも印象に残りました。
哀しい部分もある内容でしたが、その哀しみをあまり感じさせないほど、明るくパワフルな演出に強く引き寄せられました。
Posted by: ここなつ | August 14, 2017 12:58 PM
こんにちは。
ここなつさんは映画祭もちゃんとチェックされているんですね。私はそこまで手が回りません。
映画祭での評判は聞いていましたが、観客を楽しませながらも芯の通った映画でした。バーブが私の知ってる女性そっくりで、うわあと思いながら見ていました(笑)。
Posted by: 雄 | August 14, 2017 06:57 PM