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August 14, 2017

『ダイ・ビューティフル』 生の肯定と色の氾濫

Diebeautiful3
Die Beautiful(viewing film)

夏から秋にかけて、フィリピン映画が3本たてつづけに公開される。こんなこと初めてじゃないかな。いま公開中の『ローサは密告された』(8月7日ブログ参照)、10月に公開される『立ち去った女』、そしてこの『ダイ・ビューティフル(原題:Die Beautiful)』。『ローサ』はドキュメント・タッチのリアリズム、『立ち去った女』は評判によるとアート系、『ダイ・ビューティフル』はエンタテインメント色のある正統派とバラエティーも豊か。各国の映画祭で注目されているのも納得できる。

この映画のヒーロー(ヒロイン)は性同一障害のパトリック(パオロ・バレステロス)。障害を自覚した高校時代から、トリシャと名を変え女性として生き、早すぎる死を迎えるまでを、時を自在に行き来しながら描く。ジュン・ロブレス・ラナ監督の円熟した物語の才に驚く。

高校以来の性同一障害同士の友人(恋人)としてトリシャとともに生きるのがバーブ(クリスチャン・ハブレス)。この男優2人の異性装がとにかく美しい。映画が始まってすぐ、ゲイのミスコンテストに念願かなって優勝したトリシャが突然死してしまう。2人はメイクアップで生計を立てていたが、美しく死にたいというトリシャの遺言でバーブは葬式までの7日間、日替わりでトリシャの遺体にメイクをほどこす。アンジェリーナ・ジョリーだったり、ビヨンセだったり、ジュリア・ロバーツだったり。なかでもアンジェリーナ・ジョリーは絶品。

葬儀の1週間が進行するのに並行して、過去が回想される。ゲイであることを隠さずバーブと組む高校時代。憧れのバスケット部員と仲間に犯される体験。家の体面を汚すと怒る父親との対立、家を出る決断。トリシャと名前を変え、バーブとともに各地のゲイ・コンテストで金を稼ぐドサ回りの日々。乳房をつくる手術を受け、養女をもらって「母」になる。

画面にはさまざまな色が氾濫している。クローズアップされるメイク道具のパレットやリップスティック。女になったトリシャのピンク壁の部屋。ミスコンテストに着る金銀ラメの光る衣装。トリシャの棺を囲む色とりどりの花(造花?)。ドサ回りで訪れる町の市場や店の色彩。はじめから終わりまで、きらびやかでチープな色で満たされ、それがこの映画の基調になっている。

『ローサは密告された』のブリランテ・メンドーサ監督の映画はマニラの歓楽街やスラムを舞台に、色彩も沈んだトーンで統一されているけれど、この映画の色彩はトリシャとバーブの迷いのない生き方を反映して全体に明るい。監督と美術、キャメラマンの緻密な設計によるものだろう。

ストーリーは定番である「コンテストもの」のヴァリエーションだけど、その枠組みを借りて、トランスジェンダーとして生きた一人の男の生と性を力強く肯定してみせたところに真骨頂がある。

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August 07, 2017

『ローサは密告された』 フィリピン映画に圧倒される

Ma_rosa
Ma'Rosa(viewing film)

いま、フィリピン映画が熱い。カンヌやヴェネツィア、ベルリンといった主要な映画祭で次々に賞を取っている。そのトップランナーが『ローサは密告された(原題:Ma'Rosa)』のブリランテ・メンドーサ監督。『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』(2009)と『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』(2012)の2本を見たが、ドキュメンタリー的な手法でフィリピンが抱える問題を描き出す。社会派っぽい素材だけれど、骨太な人間ドラマだと思う。

この映画の舞台はマニラのスラム。ばら売りの雑貨屋を営むローサ(ジャクリン・ホセ)は、乏しい収入を補うため「アイス」と呼ばれる覚醒剤も売っている。亭主のネストール(フリオ・ディアス)はその覚醒剤にはまり、店はローサが切りまわす。2人の息子と2人の娘がいる。ある晩、警察がやってきてローサ夫妻は逮捕される。正式な逮捕ではなく、警察署内の別の部屋に連れ込まれ、20万ペソ(約44万円)で見逃してやると言われるのだが……。

照明なし、手持ちカメラの撮影が圧倒的だ。大部分が夜の撮影だけど、デジタルカメラを駆使して現場の灯りだけで撮影されている。登場人物とともに激しく雨の降るスラムを歩き回り、室内は電灯だったり蛍光灯だったりで画面の色合いが変わり、十分な明るさがないので被写界深度が浅く、ピントが手前から奥に移動したり、車のなかでも人物の顔にクローズアップしたり、まるきりドキュメンタリーを見ているリアルさだ。

夫妻に20万ペソもの金はなく、覚醒剤の売人を警察に売る。売人も別室に連れ込まれて金を求められるが、別の警官に連絡しようとして暴行される。その脇では警官たちが酒盛りをしている。ローサの子供たちがやってきて、金策に走り回る。スラムの不良グループの一員らしい長男はテレビを売ろうとする。次男はゲイの知り合いに自分の身体を売って金をつくる。長女は、不仲の親戚に行って罵言を浴びながら、わずかな金を借りる。

ローサを密告したのは、長男の弟分のチンピラだった。弟分は、逮捕された家族を見逃してもらうためにローサを売った。ローサは売人を売る。一方、ローサを逮捕した警官は没収した現金の一部を警察署長に上納する。正規の手続きなしで逮捕し金を要求する警官の腐敗もまた常態化しているのだ。スラムと地域の警察を舞台に、麻薬を巡る非正規逮捕─金の要求─密告の連鎖。末端の警官もまたわずかな給料(日本円で月給2~3万らしい)で、スラムの住民から金を巻き上げている。そのやりきれなさを、手持ちカメラはぶっきらぼうに、思い入れなしで映しだしてゆく。

最後、金策のために警察を出ることを許されたローサが、金のメドもつき、スラムの屋台で魚すり身の揚げ団子をほおばる。クローズアップされた無表情の陰に、生きる意志がみなぎる。

主演のジャクリン・ホセは今年のカンヌ映画祭で主演女優賞を得た。


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