『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』 片隅の光景
『映画 夜空はいつでも再高密度の青色だ』の原作は最果タヒの同名の詩集。詩集から映画をつくる珍しい試みだ。それがどこに表れているかといえば、主人公の男女が詩の言葉をつぶやく。例えばこんな具合に。
「都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ」
「塗った爪の色を、きみの体の内側に探したって見つかりやしない」
「夜空はいつでも最高密度の青色だ」
最果タヒが20代で書いたこれらの言葉は、いわゆる現代詩の言葉遣いでなく若い世代が日常に感ずる違和を言語化したものだろうけど、会話のなかでしゃべれば、やはり普通じゃない。変な奴と思われる。男も女も自分を変だと思っている。そんな二人が遠回りして結ばれる「ボーイ・ミーツ・ガール」の青春映画。その遠回りのあいだに、二人をとりまくこの社会の姿が見えてくる。監督は『舟を編む』の石井裕也。
美香(石橋静河)は看護師として仕事しながら、夜は渋谷のガールズバーで働いている。慎二(池松壮亮)は建築現場で日雇い仕事をしている。慎二がつるむのは兄貴分の智之(松田龍平)、中年の岩下(田中哲司)、出稼ぎフィリピン人のアンドレス(ポール・マグサリン)。彼らは仕事帰りのガールズバーで美香と会う。智之が美香とSNSでつながってつきあいはじめるが、智之はあっけなく死んでしまう。仲間しかいない通夜の席で、美香と慎二は顔を合わせる……。
美香がガールズバーで働くのはお金がほしいこともあるが、それ以上に何か焦燥にとりつかれているらしい。慎二もいつも「イヤな予感」、言いかえれば死の予感につきまとわれている(タヒとは「死」の文字を分解した名前らしい)。詩の言葉をしゃべりまくるかと思えば、黙りこくってしまう。生きづらさをかかえた二人が、お互い手探りするように相手を少しずつわかってゆく。新人の石橋静河と、いろんな映画で顔なじみの池松壮亮の抑えた演技がいい。青春映画というと必ず主人公が叫ぶシーンがあるけど、そういう場面が出てこないのもいい。
智之の通夜で、彼らを派遣する会社の社員は「仕事中に死なないでくれよな」と迷惑そうに慎二につぶやく。慎二のアパートで隣に住む読書好きの老人は、孤独死しているのが見つかる。腰を痛めた岩下は現場を去ってゆく(どこへ行くのかは明かされない)。アパートに何人ものフィリピン人と同居して暮らすアンドレスも、家族のいるフィリピンに帰る決心をする。
最後、慎二の狭いアパートで朝を迎えた二人が、鉢植えの小さなサボテンに花が咲いているのをみつける。片隅の光景で終わるのが素敵だ。
Comments