『メッセージ』 冷え冷えした空
Arrival(viewing film)
『メッセージ(原題:Arrival)』で、そうか、そうだったのかと唸ったのは、球体の宇宙船や知的生命体(どちらも、まあ過去の諸作品の延長上)ではなく、言語学者ルイーズ(エイミー・アダムズ)の過去の記憶と思われていたものが、実は未来の記憶だとわかるところ。
冒頭で、ルイーズが湖畔で少女と遊び、やがて少女が病に冒され亡くなる映像が出てくる。見る者は当然、ルイーズは辛い過去を持っているのだと思いこむ。そのショットが、何度かフラッシュバックされる。
ところが後半、宇宙船の内部に入ったルイーズは知的生命体と対話し、知的生命体にとって時間は円環するものであり、ルイーズが見ていたものが彼女の未来の記憶であることを知る。次のフラッシュフォワード(バックではなく)では、少女の父親の映像が出てきて、それがいま仲間として知的生命体とコミュニケーションを取ろうとしている物理学者イアン(ジェレミー・レナー)であることがわかる。
ルイーズには、やがてイアンと結婚し、どうやら離婚し、娘を病気で失うという未来が待っている。それでもなおルイーズは未来に賭けるのか。そういうルイーズの決断の物語として、この映画はある。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のサスペンスや緊張の演出は相変らず冴えている。いつも感心するのは映像と音の見事さ。
冒頭、屋内のカメラがゆっくり天井から下にパンすると、窓の外には湖と、どんよりと曇った空。静寂を感じさせるクールな映像がヴィルヌーヴ印。自然や都市の上に広がる冷え冷えした曇り空と、光と影のコントラストを持たない陰鬱な光は過去の作品にもひんぱんに出てきた。これは監督が北国のカナダ育ちということも関係しているかもしれない(本作のロケもカナダ)。
到来(arrival)した宇宙船の背後では、山並みに霧がゆっくりと流れている。知的生命体が持つ文字は、水中で墨が円を描いて広がり凝固するような動作をもつ。霧や墨(のようなもの)がゆっくり流れる、スローモーションのような時間の持続に緊張が高まる。
音もまた緊張を高める。宇宙船内部がきしむような音。高速で空をかすめる戦闘機の音(アカデミー音響編集賞受賞)。そこに、低音が持続するような音楽がかぶさる。不安を増幅させる。これは前作『ボーダーライン』も同じで、音楽はヨハン・ヨハンソン。ヨハンソンとは『プリズナーズ』以来のコンビで、次回作『ブレードランナー 2049』でも組んでいる(撮影は『プリズナーズ』から組む名手ロジャー・ディーキンスから若いブラッドフォード・ヤングに変ったが、ヴィルヌーヴ監督好みの映像は変らず)。
知的生命体が地球の12地点へもたらしたメッセージ云々よりも、そういうところに惹きつけられた。『ブレードランナー 2049』が楽しみだ。
| Permalink
TrackBack
Listed below are links to weblogs that reference 『メッセージ』 冷え冷えした空:
» メッセージ〜村上春樹的UFO [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。原題:Arrival。テッド・チャン原作、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、マイケル・スタールバーグ。世界12か ... [Read More]
Tracked on May 31, 2017 02:11 PM
» "あなたの人生の物語"『メッセージ(Arrival)』ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、他 [映画雑記・COLOR of CINEMA]
注・内容、台詞、ラストその他全般に触れています。『メッセージ』Arrival原作 : テッド・チャン監督 : ドゥニ・ヴィルヌーヴ出演 : エイミー・アダムスジェレミー・レナーフォレスト・ウィテカー、... [Read More]
Tracked on May 31, 2017 02:23 PM
» メッセージ 監督/ドゥニ・ヴィルヌーヴ [西京極 紫の館]
【出演】
エイミー・アダムス
ジェレミー・レナー
フォレスト・ウィテカー
【ストーリー】
巨大な球体型宇宙船が、突如地球に降り立つ。世界中が不安と混乱に包まれる中、言語学者のルイーズは宇宙船に乗ってきた者たちの言語を解読するよう軍から依頼される。彼ら...... [Read More]
Tracked on May 31, 2017 07:13 PM
» 「メッセージ」:日本の墨絵にも似て [大江戸時夫の東京温度]
映画『メッセージ』は、かなりハウブラウな所を狙っておりますね。結構アタマ使いなが [Read More]
Tracked on May 31, 2017 10:11 PM
» 『メッセージ』 映画が避けてきたもの [映画のブログ]
【ネタバレ注意】
『メッセージ』には脱帽だ。前回の記事で、私はSF映画の物足りなさを吐露したばかりだ。ところがこの映画は、まさに私が望んでいたものを見せてくれた。
前回の記事「『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』 フォックスと取引した理由」で、私は次のように述べた。
・地球人の役者が変わった衣裳やメイクで演じるだけの異星人が多いけれど、異星人には地球人とは...... [Read More]
Tracked on May 31, 2017 10:24 PM
» 「メッセージ」 [或る日の出来事]
なかなか地味どしたなあ。 [Read More]
Tracked on May 31, 2017 10:28 PM
» メッセージ(2016年製作) [象のロケット]
地球各地に、巨大な球体型宇宙船が出現する。 米軍のウェバー大佐から協力要請を受けた言語学者の女性ルイーズは、物理学者の男性イアンと共に、謎の知的生命体と意志の疎通をはかることに。 相手に明確な言語があるかどうかも分からず、延々と試行錯誤が続いていく。 やがて、しびれを切らし暴挙に出ようとする国も出始めた。 “彼ら”は人類に<何>を伝えようとしているのか…。 SFミステリー。“ ... [Read More]
Tracked on June 03, 2017 05:23 PM
» メッセージ [だらだら無気力ブログ!]
なんで未来が分るんだっけ? [Read More]
Tracked on June 04, 2017 01:38 AM
» メッセージ(2016) [映画的・絵画的・音楽的]
『メッセージ』(2016年)を渋谷Humaxシネマで見ました。
(1)アカデミー賞のいろいろな部門でノミネートされた作品(注1)なので、映画館に行ってきました。
本作(注2)の冒頭は、湖の畔に建てられている本作の主人公・ルイーズ・バンクス(エイミー・アダムス)の...... [Read More]
Tracked on June 05, 2017 09:23 PM
» 映画:メッセージ Arrival 21世紀版、エイリアンとのファーストコンタクト、は 映画初体験?!の斬新さ。 [日々 是 変化ナリ ~ DAYS OF STRUGGLE ~]
まずオープニングで舌を巻く。
ほんの数分で主人公の職業・経歴・経験値だけでなく、心の状態までもが露わにされる。
ほぼ平行して直ちに事件が発生、鑑賞者もその危機的状態に叩き込まれる!
この手腕、なかなかに流石。
それもそのはず!
周回遅れDVD鑑賞なのに去年のベスト10入り「ボーダーライン」
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督(「灼熱の魂」「プリズナーズ」)の成長・充実ぶりに感心。
特に「ボーダーライン」での映像 + 気味悪い音楽・音響は特筆すべき出来だった。
その彼が SF... [Read More]
Tracked on June 07, 2017 11:59 PM
» メッセージ [とらちゃんのゴロゴロ日記-Blog.ver]
テッド・チャンの短編小説をドゥニー・ヴィルヌーヴ監督が映画化したSF作品だ。ある日突然地球に飛来したエイリアンとの意思疎通を女性言語学者が解明する物語だけど、実は数千年後の地球にいる生物と人類との対話みたいな様相だと思った。最初から人類と敵対しているわけで... [Read More]
Tracked on June 18, 2017 11:25 PM
Comments
こんにちは!
本当に、素晴らしい作品でした。
>それでもなおルイーズは未来に賭けるのか。そういうルイーズの決断の物語として、この映画はある。
と書かれていらっしゃいますが、私もそのことを強く感じました。
そして、ドゥニ監督の「ブレードランナー」、楽しみなのは、私も同意です!きっと、全っ然違う「ブレードランナー」になると思うのですが、そこがまたいいのでは?と思います。
Posted by: ここなつ | May 31, 2017 03:41 PM
「ブレードランナー」は撮影・ロジャー・ディーキンス、音楽・ヨハン・ヨハンソンと「プリズナーズ」以来のチームに戻るようですね。その意味でも期待してしまいます。
リドリー・スコットのものよりサスペンスあふれる映画になるのではないかと。
Posted by: 雄 | June 01, 2017 11:10 AM