『マリアンヌ』 美男美女の映画
美男美女を主役に第二次大戦中のカサブランカを舞台にしたスパイものと言えば、どうしても名作『カサブランカ』を思い出してしまう。アメリカが参戦した1942年に公開された『カサブランカ』は、ラブロマンスの衣の下でさりげなく反ナチのメッセージを伝える広義のプロパガンダ映画だったけど、『マリアンヌ(原題:Allied)』はそういうイデオロギーは抜きにして楽しめるサスペンス+メロドラマになっている。
カナダ空軍の情報将校マックス(ブラッド・ピット)は、ドイツに占領されたフランス植民地のカサブランカで、レジスタンス「自由フランス」のマリアンヌ(マリオン・コティヤール)と組んでドイツ大使を暗殺する。恋に落ちた二人はロンドンで結婚するが、マリアンヌにドイツのスパイではないかと疑いがかけられ……。
映画の前半と後半で、多少色合いが違う。前半は、二人が夫婦を装ってドイツ大使館のパーティにもぐりこみ、大使を暗殺するサスペンスとアクション。加えて、夫婦を偽装する二人が互いに演技なのか本心なのかさぐりあっている気配が面白い。マリアンヌは、正体がばれないためには「感情を偽らない」のが大事だと言う。この言葉が、映画の最後まで効いている。
マックスはパリから来たというふれこみなのに、カナダのフランス語圏であるケベック訛りのフランス語を話す。それもまたサスペンスの一要素。マリアンヌがマックスを「ケベック人」とからかう。二人が男と女の駆け引きをしつつ夫婦を装って周囲をだますあたりのリズムは心地いい。
原題のAlliedは、同盟したとか連合したといった言葉で、連合国側のという意味合いと、二人の連合という意味合いをかけてるんだろうけど、いずれにしても男と女の間には使われない硬い言葉を選んでいるところに味がある。
マリアンヌにスパイの疑いがかけられる後半は、メロドラマ+心理サスペンスのタッチ。マリアンヌがスパイかどうかは、観客にもラスト近くで明かされるまで分からない。フランス国歌の「ラ・マルセイエーズ」がサスペンスの鍵になり、決定的なシーンが航空機のそばなのは『カサブランカ』を意識してるからだろう。
マリオン・コティヤールもカサブランカを舞台にした前半は、絹のドレス姿が清純派のイングリッド・バーグマンより色っぽい。ロンドンの後半は、戦時下のつましい主婦といったたたずまい。アカデミー主演女優賞を受賞した『エディット・ピアフ』、ミュージカルの『NINE』、ほとんどスッピンだった『サンドラの週末』、最近の『たかが世界の終わり』と、映画によってずいぶん印象が違う。あの大きな目が魅力なのは共通してるけど。ブラッド・ピッドは、ハンフリー・ボガートのような渋みはないけど八の字眉は健在。
古めかしい美男美女のメロドラマと、CGを駆使して戦時下のカサブランカやロンドンを再現したロバート・ゼメキス監督の職人技。むずかしいことは考えず気持よく楽しめました。
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