『ジムノペティに乱れる』 小味でひねりのきいた
20代のころ、ほんの一時期、週刊誌の芸能担当記者をしていたことがある。
そのころ、日活ロマンポルノが猥褻図画公然陳列で摘発され、裁判になった。当時の目で見ても(ピンク映画などに比べて)特に性表現が過激だったわけでもなく、作品の出来も大したことはなかったけれど、これ幸いとプロデューサーや監督に話を聞いて記事にしたことがある。それをきっかけに日活調布撮影所に行って何人かの監督や女優のインタビュー記事を書いた。映画好きが趣味を仕事にできた、会社勤めのなかでいちばん幸せな時期だった。
この時期の日活ロマンポルノは、神代辰巳の『一条さゆり・濡れた欲情』や『四畳半襖の裏張り』、藤田敏八『エロスは八月の匂い』、田中登『マル秘・女郎責め地獄』『屋根裏の散歩者』など傑作を連発していた。
『ジムノペディに乱れる』(行定勲監督)は「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」とタイトルされた5本の映画の第1作。このプロジェクトは「総尺80分前後、10分に1回の濡れ場、製作費は一律、撮影期間1週間、完全オリジナル作品、ロマンポルノ初監督」という条件。かつての日活ロマンポルノに近い制約のなかで新しい試みをということだろう。ほかに園子温『アンチポルノ』、塩田明彦『風に濡れた女』、中田秀夫『ホワイトリリー』などが控えている。
……と、ここまで前置きを書いて3週間たってしまった。家族の事情で週に何日か病院に詰めることになり、ブログの更新もままならない。映画も見られない。『ジムノペディに乱れる』もディテールを忘れてしまったけれど、とりあえず覚えていることだけメモしておこう。
主人公の古谷(板尾創路)は映画監督。かつてベルリン映画祭で受賞したアート派だが客の入りが悪く、今は志と異なる映画をつくっている。主役に起用した女優(岡村いずみ)はベッドシーンが嫌だとゴネて、映画を下りてしまう。鬱屈した古屋は、かつて訳ありだった女性スタッフや映画学校の生徒(芦部すみれ)、元妻など、女たちの間をさまよう。
懐かしかったのは、70年代の私小説ふうなやるせなさが画面に漂っていたこと。そういえば行定勲は『パレード』でベルリン映画祭の賞を取っていたなあ。これが行定の私小説だとは思えないけど、ロマンポルノのある種の定型を意識しているのかもしれない。記憶でいえば神代辰巳の『恋人たちは濡れた』に似たような空気を感じた。
ここぞというときエリック・サティが入ってくるのはお約束。サティの音と板尾創路の存在感が印象に残る映画でした。昔のプログラム・ピクチャーには、傑作とは言えないけど小味でひねりのきいた映画がときどきあって、そういう作品に当たるとお金を払った分は取り戻した気がして映画館を出た。そんなことも思い出した。
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