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December 31, 2016

映画・今年のBest10

Sicario
Best10 Films in 2016

今年は秋以降、いくつかの事情が重なって映画を見る本数がぐっと減った。見ても感想を書けない映画も増えた。とてもベスト10を選ぶような本数を見てないけれど、お遊びだし、自分の楽しみのために10本を選んでみた。いつものように洋画も邦画も一緒。

1  ボーダーライン
2  光りの墓
3  彷徨える河
4  さざなみ
5  オーバーフェンス
6  キャロル
7  エクス・マキナ
8  山河ノスタルジア
9  暗殺
10 ディストラクション・ベイビーズ

1 今年、映画を見ることの快楽をいちばん味わった作品。トランプのアジテーションで話題になったメキシコ国境。麻薬カルテルのボスを殺すため、CIAが国境を越えて暗殺者を差し向ける。といっても社会派でなく、寡黙なベニチオ・デル・トロの殺し屋が絶品。砂漠のノワールになっているのが素敵だ。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とロジャー・ディーキンス撮影監督はハリウッドの最強コンビ。

2 タイの地方都市で日常のなかに当り前のような顔をして過去や死者が入りこんでくる。眠り病患者の夢が呼び起こされる。政治的なメッセージを発することのなかったアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が、森と光と風の「クメールのアニミズム」の根拠地から軍事政権を批判する。監督は、これから国内では映画をつくれないだろうと言うが、どうなるのか。

3 こちらは南米コロンビアのアニミズム。近代化と植民地主義にさらされたアマゾン奥地を舞台に、西洋人の宣教師と人類学者、西洋化した先住民と自らを失ったシャーマンが旅する。アマゾンの源流への旅は過去へ遡る旅でもあり、主人公のシャーマンが自らを回復する旅でもある。コロンビアの現在を典型として描いたように思えた。

4 『愛の嵐』以来のシャーロット・ランプリングのファンとして、その悪魔的な魅力と怖さに年輪を加えていよいよ磨きがかかったのを堪能。のどかな田園風景のなか、淡々とした老夫婦の日常に静かに深い亀裂が入ってゆく。若い監督だけど、イギリス映画の成熟を感ずる。

5 佐藤泰志原作、函館3部作の3作目。どんよりした北の空の下、オダギリジョーと蒼井優が出会い、傷つけあい、もういちど出会う。地方都市のゆるい空気や、脇役の点描もこなれている。前2作より、かすかな明るさを感じさせるのがいい。こちらも山下敦弘監督の成熟を感ずる。

6 1950年代ハリウッド映画を思わせる濃厚なメロドラマに酔う。とはいえ、男と女ではなく女と女の愛。そこからくる偏見や差別など、今日性を持たせている。ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラがひたすら美しい。

7 アンドロイドのクールなエロチシズムがたまらない。SF+密室ミステリー+猟奇殺人といったジャンル映画をうまく組み合わせて楽しませる。ノルウェーの山岳地帯でロケした人里離れた静寂が雰囲気を出す。

8 ひとりの女性の過去・現在・未来。彼女の人生を2人の男とひとりの息子が彩り、ジャ・ジャンクー流の大河ドラマといった趣だ。ジャ・ジャンクーの映画は中国で上映禁止になることが多いが、これは受け入れられるだろう。

9 日本植民地下のソウル。親日派実業家と日本軍将校の暗殺を描くアクション・エンタテインメント。表の顔は反日だけど、映画の中身は植民地下で協力者として生きざるをえない者の悲しみに力点をおく。型どおりの二分法からはみでるものを感ずる。チョン・ジヒョンがかわいい。

10 映画全体から発する暴力と破壊の衝動。不穏な空気が全編にみなぎる。殺人者の誕生を演ずる柳楽優弥の面構えは、『復讐するは我にあり』の緒方拳を思い出させる。

ほかにリストに入れるか迷ったのは、『火の山のマリア』『サウルの息子』『殺されたミンジュ』『蜜のあわれ』『007 スペクター』『淵に立つ』『シン・ゴジラ』といったところ。

改めてリストを見てみると、女優で選んだ映画が多いなあ。『007 スペクター』のレア・セドゥとモニカ・ベルッチもそうだし。

一年間おつきあいいただいて、ありがとうございました。良い年をお迎えください。

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December 29, 2016

根津甚八を悼む

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「ジョン・シルバー 愛の乞食篇」(根津甚八ダイアリーから)

根津甚八が亡くなった。小生と同い年、69歳。

根津甚八を最初に見たのは状況劇場の『二都物語』だったか『鉄仮面』だったか。よく覚えていない。強烈な印象を受けたのは李麗仙の相手役に抜擢された『唐版・風の又三郎』(1974)。翳りを感じさせながらも爽やかな二枚目で、奇優、怪優の多い状況劇場の面々のなかでは異色の存在だった。一緒に見に行った女の子がころりと参ってしまい、嫉妬しようにも相手が悪すぎた。

その後、映画にも進出し、素晴らしかったのは秋吉久美子と共演した『さらば愛しき大地』(1982)。鹿島臨海工業地帯をバックに、高度経済成長からはぐれた男と女の愛が息詰まるようだった。アパートから見える林が音もなく揺れるのが、どんづまりの2人の存在の揺らぎそのもののように見えた。この映画でキネマ旬報主演男優賞を受けている。

最後に見たのは、引退後にただ一度だけ復帰した映画『GONIN サーガ』(2015)。かつての根津甚八とその後の闘病生活を知る者には、感慨なしに見られない映画だった。最後まで恰好よかった根津のダンディズム。

同世代、ましてや同い年の死はこたえる。合掌。


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December 23, 2016

冬の畑

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turnip and garland chrysanthemum in my garden

わが家の畑、冬はいつも休んでいるのだが、今年はカブと春菊を植えた。

ゴーヤとミニトマトが10月上旬まで収穫できたので、種を播いたのが10月中旬。ちょっと遅かった。芽が出るころには日差しが弱くなっていた。どうなることかと思ったが、ようやく大きくなってきた。これなら収穫できそう。カブは糠漬けに、春菊は鍋に。冬はこれがうまい。


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December 21, 2016

『ジムノペティに乱れる』 小味でひねりのきいた

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20代のころ、ほんの一時期、週刊誌の芸能担当記者をしていたことがある。

そのころ、日活ロマンポルノが猥褻図画公然陳列で摘発され、裁判になった。当時の目で見ても(ピンク映画などに比べて)特に性表現が過激だったわけでもなく、作品の出来も大したことはなかったけれど、これ幸いとプロデューサーや監督に話を聞いて記事にしたことがある。それをきっかけに日活調布撮影所に行って何人かの監督や女優のインタビュー記事を書いた。映画好きが趣味を仕事にできた、会社勤めのなかでいちばん幸せな時期だった。

この時期の日活ロマンポルノは、神代辰巳の『一条さゆり・濡れた欲情』や『四畳半襖の裏張り』、藤田敏八『エロスは八月の匂い』、田中登『マル秘・女郎責め地獄』『屋根裏の散歩者』など傑作を連発していた。

『ジムノペディに乱れる』(行定勲監督)は「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」とタイトルされた5本の映画の第1作。このプロジェクトは「総尺80分前後、10分に1回の濡れ場、製作費は一律、撮影期間1週間、完全オリジナル作品、ロマンポルノ初監督」という条件。かつての日活ロマンポルノに近い制約のなかで新しい試みをということだろう。ほかに園子温『アンチポルノ』、塩田明彦『風に濡れた女』、中田秀夫『ホワイトリリー』などが控えている。

……と、ここまで前置きを書いて3週間たってしまった。家族の事情で週に何日か病院に詰めることになり、ブログの更新もままならない。映画も見られない。『ジムノペディに乱れる』もディテールを忘れてしまったけれど、とりあえず覚えていることだけメモしておこう。

主人公の古谷(板尾創路)は映画監督。かつてベルリン映画祭で受賞したアート派だが客の入りが悪く、今は志と異なる映画をつくっている。主役に起用した女優(岡村いずみ)はベッドシーンが嫌だとゴネて、映画を下りてしまう。鬱屈した古屋は、かつて訳ありだった女性スタッフや映画学校の生徒(芦部すみれ)、元妻など、女たちの間をさまよう。

懐かしかったのは、70年代の私小説ふうなやるせなさが画面に漂っていたこと。そういえば行定勲は『パレード』でベルリン映画祭の賞を取っていたなあ。これが行定の私小説だとは思えないけど、ロマンポルノのある種の定型を意識しているのかもしれない。記憶でいえば神代辰巳の『恋人たちは濡れた』に似たような空気を感じた。

ここぞというときエリック・サティが入ってくるのはお約束。サティの音と板尾創路の存在感が印象に残る映画でした。昔のプログラム・ピクチャーには、傑作とは言えないけど小味でひねりのきいた映画がときどきあって、そういう作品に当たるとお金を払った分は取り戻した気がして映画館を出た。そんなことも思い出した。

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December 20, 2016

『マラス』を読む

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工藤律子『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社)の感想をブック・ナビにアップしました。

http://www.book-navi.com/

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December 07, 2016

新安比温泉へ

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a trip to Shin Appi Spa

岩手県八幡平の新安比温泉へ出かけた。盛岡駅から北西へ車で1時間ほど。標高500メートル。さっそく露天に入ると雪が舞っている。

新安比温泉は、安比スキー場麓にある安比温泉から10キロほど北、東北自動車道の安代ジャンクション近くにある。東北道の工事で温泉が湧出し、1980年代に日帰り温泉から出発した新しい温泉。

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この温泉の売りものは強烈な赤錆色の強食塩泉。1キロの湯に20グラムの食塩を含んでいる。なめると海より塩辛い。赤錆色は鉄分を含むから。湯舟や床もこの色に染まっている。タオルも3日で薄くこの色に染まってしまった。ぬるめと熱め、二つの浴槽があり、ぬるめの湯に長くつかると芯からあったまる。アトピーなど皮膚病によく効くそうで、湯治客もいる。

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地下の温泉成分の結晶。古代の海が化石になり、地下水がこの層をくぐることで温泉になる。

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滞在している間、強風や雪、雨、かと思うと青空がのぞく不安定な天気。枯れ枝が揺れ、雲が動くのを見ていると飽きない。

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近くを流れる安比川。

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このあたり、昔から漆器生産が盛んなところ。宿から歩いて10分ほどのところに安比塗漆器工房がある。小鉢を、湯呑にするつもりで求める。


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