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September 27, 2016

『怒り』 クールな小説、ホットな映画

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『怒り』でいちばん見ごたえがあったのは、ずらりと揃えた主役級の役者が今まで見たことのない顔を見せてくれたことだ。

なかでも驚いたのは宮﨑あおい。千葉の漁港で働く渡辺謙の娘役で、原作では小太り、やや知的障害のある女性。新宿の風俗で働いているところを父親に連れ戻され、彼の元で働く流れ者の松山ケンイチと出会う。宮﨑はこれまで知的な女優というイメージがあったし、小太りでもない。宮﨑はこの映画のために5キロ太ったそうだけど、明日のことなど考えず瞬間瞬間の感情のままに生きる女を見事に演じてる。

松山ケンイチはいつものケレン味を封印して、無口無表情。渡辺謙はこの映画ただ一人の父親世代の役者で、無精ひげで娘の行動におろおろする姿が貫禄。

東京でIT企業の社員として働く妻夫木聡はゲイ役。優男の妻夫木はゲイの雰囲気を自然に出してるが、裸になると意外に頑健な身体。相手役の綾野剛は頼りない感じがいい。

沖縄の島にふらっと現れる森山未來は、映画によってずいぶん印象が違う。『モテキ』の軟派学生や、『苦役列車』のぐうたらなフリーターから一変。長髪にひげ面のバックパッカーで、得体のしれない雰囲気をかもしだす。広瀬すずは南の島の少女。若いのにすごい存在感だ。

それぞれの役者を見ているだけで楽しい。東京、千葉、沖縄で三組のカップルが出会い、親しくなり、やがて相手が殺人犯ではないかと疑いはじめる(沖縄はちょっと違うが。ここだけはややステレオタイプ)。下手をすれば冗長になりそうな三組のストーリーを、李相日監督は都会、港町、南国それぞれの風景を取り入れて手際よく語ってゆく。はっとするショットを交えたカメラワーク、場所と場所のつなぎで効果的な音の使い方、うまい監督なんだな。

大作にふさわしい出来。ただ残念だったのは後半、物語が盛り上がるところで感情表現が過多なこと。これは日本映画を見ていつも感ずることだけど、宮﨑あおいや広瀬すずが泣き叫び、坂本龍一の音楽がこれでもかと高鳴る。そのため原作の持ち味であるクールさが失われ、ホットな映画になってしまった。妻夫木聡が路上で静かに涙を流す。渡辺謙が無音で崩れおちる。それで十分じゃないだろうか。泣くのがいつも女性であることも、思い込みと悪しき定型を感じさせる。過剰な表現は観客も「泣ける」かもしれないけど、そのぶん見終わった後に残るものが失われたような気がする。


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