『ミモザの島に消えた母』 干潟の道の風景
『ミモザの島に消えた母(原題:Boomerang)』の舞台はフランス大西洋岸のノアールムーティエ島という小さな島。この島とフランス本土の間は潟になっていて、満潮のときは海だが、干潮のときは陸地になる。潟のなかを島と本土を結ぶ「ゴアの通路」と呼ばれる4キロほどの道が走っていて、潮が満ちると道路は海に没する。この道はグーグル・アースでも見ることができるが、この道路が映画の鍵になる。
かつて島に住んでいた家族をめぐるミステリー。際立つ個性があるわけじゃないけど、楽しめる映画に仕上がっている。
アントワン(ローラン・ラフィット)は離婚したばかりの男。子供のころノアールムーティエ島に住んでいて、30年前に母が不可解な死を遂げたことをいまだに忘れられない。父も祖母も、その話題になると口をつぐむ。ある日、気が進まない妹のアガッタ(メラン・ロラン)を誘って島を訪れる。アントワンは母が死んだ病院で、死体修復師をしているアンジュル(オドレイ・ダナ)と出会って惹かれあい、二人で母の死について聞いて回る。かつて一家の家事手伝いとして働いていた老女は、なにかを隠している……。
「ブーメラン」という原題は、アントワンが30年後にノアールムーティエ島にブーメランのように帰ってきたことを指しているのか。加えて、もうひとつ。アントワンの10代の娘は、女友達を愛していると父に打ち明ける。そのことと、母が美術家の女性に惹かれたことが死の原因になったこと。世代をまたいで、過去が現在にブーメランのように戻ってくることが重ねられている。30年前といえば1980年代。もうフェミニズムの時代だけど、フランスの田舎ではまだ同性愛は許されないことだったんだろうか。
母の運転する車が、潮が満ちてきた「ゴアの通路」を水しぶきをあげて走る。フランソワ・ファブラ監督は、このショットを撮りたかったんだろうな。こんな道路が今も残っているのが、いかにもヨーロッパという感じがする。
Comments