『クリーピー 偽りの隣人』 凶悪な緑
黒沢清のホラーでは、こうなったからこうなるという因果関係の説明なしに、いきなり恐怖が始まる。その予兆として、なんでもない風景が禍々しく見えてくるショットが挿入されることが多い。
『クリーピー 偽りの隣人』では、犯罪心理学者・高島(西島秀俊)と妻・康子(竹内結子)が引っ越してきた家の隣家のショット。シネスコ画面手前にフェンスで囲まれた空地があり、日陰になっている。その向こうに隣家がある。画面の奥左半分はここも日陰の家屋、右半分が庭で、そこにだけ強い太陽の光が当たっている。庭は手入れされていないらしく、雑草が高く伸びている。にわかに風が吹き、ゆらぐ緑が強烈なコントラストのなかで凶悪な色に見えてくる。その数秒のショットがすごい。
東京の稲城市でロケされているようだ。稲城は多摩丘陵にあり、アップダウンと緑の多い新興住宅地。丘の上から自宅や不審な隣家を見下ろす。隣人の西野(香川照之)と康子がトンネルと傾斜のある道で出会う(脇には緑の雑草)。自宅と隣家を真上から見下ろすショットがある。そんな具合に、見上げたり見下ろしたりする視線と凶悪な緑色、トンネルの闇がドラマに影を落としている。撮影は黒沢と組んできた芦澤明子。
元刑事の高島は、かつての同僚(東出昌大)から6年前の一家失踪事件の分析を頼まれる。調べると、失踪した一家の隣に住んでいた隣人の存在が浮かびあがる。引っ越した高島夫妻は、隣家の西野の言動に不審を感ずる……。
殺人の動機から方法から背後の人間関係からすべて言葉で説明しなければ気がすまないテレビの2時間ドラマを見慣れた目には、黒沢清のホラーは説明もなく、唐突で、そのうえ観客をびっくりさせる脅しもないから、奇妙な映画に見えるだろう。よく分からないけど、怖い。
香川照之は、こういうのがはまり役でまたかとも思うけれど、うまいし怖いから仕方ない。彼なしでは成り立たない映画かもしれない。西島秀俊はところどころ偏執的なところがほの見えて、香川照之とコインの表裏のような役どころ。
もうひとつ、気になったショット。なかほどで、トンネル手前で香川照之と竹内結子の姿かたちがほとんどひとつに重なっている奇妙な画面。その後、手をつないでいたらしい二人が手を放して別れる。しばらくして竹内結子の腕に注射痕のあるのが写され、そこではじめてそのショットの意味が分かる。竹内結子が香川照之に引き込まれてゆく過程はほとんど描写されないが、竹内結子が自宅でぼんやりしているショットでそれが暗示される。
隣家の内側へカメラが入ってからは、いかにも黒沢清好みの装置と展開になる。『岸辺の旅』も悪くないけど、やっぱり黒沢清の本領はこっちだなあ。


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