『エクス・マキナ』 ロボットのエロチシズム
『エクス・マキナ(原題:Ex Machina。「機械仕掛けの」の意)』は脚本家アレックス・ガーランドの初監督作。過去の名作SFのいろんな要素を組み合わせながら、クールなエロチシズムを漂わせているのが面白い。ロボットの姿は『メトロポリス』から、コンピューター(人工知能)の反乱というテーマは『2001年 宇宙の旅』から、そして物語は『ブレードランナー』の前日譚といった趣になっている。
それに低予算(インディペンデントのイギリス映画で1500万ドル)だからか登場人物は4人、人里離れた研究所が舞台(ノルウェーの山岳地域でロケ)という設定が、制約を逆手にとった静謐な雰囲気を高めている。ミステリーの密室ものや猟奇殺人といったジャンル映画の要素もある。
ケイレブ(ドーナル・グリーソン)は検索エンジンの世界的企業に勤めるプログラマー。ある日、巨万の富をもち、人里離れた施設で研究する社長のネイサン(オスカー・アイザック)に呼ばれる。研究所にはネイサンと英語を解さないメイドのキョウコ(ミズノ・ソノヤ)の2人だけがいる。ケイレブはネイサンから、女性型ロボットのエヴァ(アリシア・ヴィキャンデル)に装着した最新型人工知能の性能を測るテストを行うよう命じられる。やがて、エヴァの性能を測るはずのケイレブが逆にエヴァの性能の実験台になっていることが分かってきて……。
ミステリーものの常道で、研究所を訪れたケイレブが少しずつ不安を高めていく。支配的なネイサンの態度。表情を変えないメイド。仕切られたガラス壁にはひび割れがある。突然の停電。監視カメラが作動しなくなった瞬間、ロボットのエヴァはケイレブに「ネイサンを信じないで」とつぶやく。
この映画がアカデミー賞視覚効果賞を取ったのは、なんといってもエヴァという女性型ロボットの造形でしょうね。人間と同じなのは顔と手のみ。頭は銀色の金属、上半身と腰は網をかぶせたグレイの物質、上半身と腰の間や脚は透明で、金属製の骨格や配線が透けて見える。エヴァが動くと透明部分の背景も移動するわけで、このあたりがVFXの見せどころなんだろう。
後半になると、ネイサンが何体もの女性型ロボットをつくっていたことが判明する。なかには人間そっくりのもある。クローゼットを開けると裸の人型ロボットが出てきたり、人肌のパーツをはがしたり装着したりのシーンは、猟奇犯罪もの映画の応用編とでもいうか。
そのことを知ったケイレブは実は自分もロボットなのではないかと疑い、自分の眼球の周囲を広げてみたり、腕にナイフを突き刺したりする。これは『ブレードランナー』で、探偵役のハリソン・フォード自身が実はレプリカントではないかと疑わせる描写があったことを踏まえてるんじゃないかな。
といった具合に色んな映画の色んなアイディアが合体され、それでいながら全体として静かでミステリアスな雰囲気に満ちているのがいいな。
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