『ディストラクション・ベイビーズ』 純粋破壊衝動
Destruction Babies(viewing film)
自主映画の世界で評価の高い真利子哲也監督の商業映画デビュー作『ディストラクション・ベイビーズ』は、ひたすら暴力を描く。そのシンプルさと、主役を演ずる柳楽優弥が全身から発する気味悪さによって、映画全体が不穏な気配に満ちている。
暴力といっても、強い者が弱い者に一方的にふるう暴力ではない。泰良(柳楽優弥)は路上で強そうな男や集団をみると、いきなりなぐりかかる。相手はやくざだったり集団だったりするから、たいていぶちのめされ、顔面から血を流して倒れる。それでもこりない。そのしつこさに、最後には男たちも辟易して逃げていく。そして肝心なことは、泰良がなぜ殴りかかるのか、その理由はいっさい説明されないことだろう。泰良自身もほとんど言葉を発せず、「楽しけりゃええけん」とつぶやくのみ。
そんな泰良に裕也(菅田将暉)がまとわりつき、一緒に行動するようになる。もっとも裕也は勝てそうな相手にしか喧嘩をふっかけない。いわゆるチャラ男というやつ。喧嘩に勝って相手の車を奪うと、車内にいたキャバクラ嬢・那奈(小松菜奈)をトランクに押し込めて郊外に車を走らせる。事故を起こし、男を死なせてしまう。泰良、裕也、那奈の3人に共犯意識が漂う。とはいえ、警察に事情を聞かれた那奈はあくまで被害者を装う。
もうひとり、泰良の弟・将太(村上虹郎)がいる。将太は普通の高校生で、家を出て町を放浪する兄の泰良を探し回る。映画のはじめと終わりで2度ほど、将太のショットの後、男が歩くのを後ろから捉えるショットがつづく。パーカーのような似た服を着ているので、それが兄なのか弟なのか観客はとまどう。そのとまどいは、画面がその顔を捉えた瞬間、それが弟で、しかも兄のような暴力をふるう男に豹変するのではないかという不安に変わる。
愛媛県松山の市街と港の三津浜でオールロケされている。泰良たちの暴力のかたわら、神輿と神輿をぶつけあう三津浜の喧嘩祭のシーンが対置される。こちらは、人間の破壊衝動を共同体が祭に昇華させている。泰良たちの暴力は、共同体が薄くなった、あるいは壊れた結果だというふうにも読める。
ラストシーンは、泰良という一人の殺人者──社会から見れば理由なき殺人鬼──が誕生したことを告げる。柳楽優弥の面構えは、『復讐するは我にあり』の緒方拳を思い出させる。
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