『レヴェナント 蘇えりし者』 デジタル・シネカメラの進化

The Revenant(viewing film)
映画を見る醍醐味のひとつは、自分では体験できない時間と空間に身をおいて、まるでその場に居合わせたような体感を味わえることだろう。最近でいえば『ゼロ・グラビティ』が、宇宙空間を浮遊するとはどういうことなのかを五感が未知の体験をしたように味合わせてくれた。そのリアリティの背後には、この映画の場合ならVFXによるデジタル的な映画づくりの進化といった技術的な要素がある。
『レヴェナント 蘇えりし者(原題:The Revenant)』が体感させてくれるのは19世紀、まだ未開の北米大陸の、雪に閉ざされた森と山岳地帯。見る者がまるでそこに迷い込んだような錯覚さえ起こすリアルな映像。原作ではカナダ国境に接するダコタの平原が舞台になっているが、映画ではもっと西のロッキー山脈に設定されているようだ。
先住民と開拓民が縄張りを争っていた時代。先住民の領分に入りこんだアメリカ人・カナダ人の狩猟者一団に、ガイドとして猟師のヒュー(レオナルド・ディカプリオ)が、先住民の女との間にできた息子とともに雇われている。単独行動していたヒューはハイイログマに襲われ瀕死の傷を負うが、一方、一団は先住民アリカラ族に襲われ、船を捨てて陸路で砦に戻ることになる。
ヒューにつきそって最後まで看取るよう隊長に命じられたフィッツジェラルド(トム・ハーディ)は、ヒューを見捨てようとし、言い争いになってヒューの息子を殺してしまう。やがて瀕死の傷から蘇ったヒューは、息子を殺したフィッツジェラルドに復讐しようと、雪の荒野を生きぬいて砦をめざす……。
単純な復讐譚だから物語的な面白さは少ない。見る者の興味は、傷ついたディカプリオがどんなふうにこの状況をサバイバルし、復讐を遂げるのかに絞られる。冬の凍てついた川に飛び込み、雪の山野をさまよい、凍死を避けるため馬の死骸の中に入りこんだりと、ディカプリオは過酷な撮影に挑んだ(それがアカデミー賞につながったんだろう)。
アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督はVFXで画面をつくることをせず(ディカプリオがハイイログマに襲われるシーンはデジタル処理されてるだろうが)、実際に冬のロッキー山脈や、雪を求めてアルゼンチンで長期の撮影をした。
全編を鈍い光が支配している。ディカプリオが降りかかった新雪を口に入れたり、冬枯れの木立が風に震えたり、山並みが逆光に光ったり、繊細な映像がなんとも美しい。日の出直後、日没直前のいわゆる「マジック・アワー」(空と地上が同じ明るさになり、いちばん美しく写真が撮れる時間)に自然光のみで撮影しているからだろう。
撮影はイニャリトゥの前作『バードマン』で組み、『ゼロ・グラビティ』でも撮影を担当したエマニュエル・ルベツキ。彼は『レヴェナント』でドイツARRI社製で巨大センサー(54.12×25.59mm)を搭載した65ミリ・シネカメラALEXA 65を使用している(『ゼロ・グラビティ』で使ったのもALEXA)。
デジタル・シネカメラの進化により高感度・高精細撮影ができるようになって、『ゼロ・グラビティ』の宇宙空間、『レヴェナント』の冬の森林といったリアルな映像が可能になった。『ゼロ・グラビティ』ではデジタル・シネカメラとVFX、『レヴェナント』ではデジタル・シネカメラと厳しい条件のロケを組み合わせて映画がつくられている。映画の進化形は3Dなんかより、こっちの方向にあるんじゃないだろうか。
そんな技術的なことだけでなく、例えばこの映画では英語だけでなく、フランス語(アメリカ人だけでなくフランス系カナダ人もいるという設定)、先住民のアリカラ語(ディカプリオがしゃべる)が話されているなど周到な配慮がなされている。メキシコ人のイニャリトゥ監督だからこそ、かな。
イニャリトゥ、『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン、その2人と組む撮影監督ルベツキと、メキシコ出身組がハリウッドを席巻している。

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