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May 19, 2016

『緑はよみがえる』 イタリア・アルプスの月

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Torneranno i Prati(viewing film)

最近でこそ第一次世界大戦の世界史的な意味について論じた本がずいぶん出ているけれど、第二次世界大戦に比べれば、やはり戦場から遠いアジアに住む僕たちにとって遠い戦争であることに変わりはない。でもベストセラーになったピケティの『21世紀の資本』を読んでも、第一次大戦とそれに続く大恐慌が数百年つづいたヨーロッパ社会の基本構造を壊したことがわかる。

それだけでなく、戦争の形態が軍隊と軍隊の戦闘から国の総力を挙げて国家対国家が対決する総力戦になったこと、飛行機や戦車など最新の科学兵器が登場したこと、兵士の肉体と精神を極限まで追い込む塹壕戦が長くつづいたことなどからも、第一次大戦が特にヨーロッパの人々にどんなに衝撃を与えたかが想像できる。

塹壕戦を描く映画を初めて見たのは大学時代、戦争映画の古典『西部戦線異状なし』だった。主人公のドイツ兵士が、蝶をつかまえようと塹壕から身を乗りだした瞬間に射撃されるショットは鮮明に覚えている。

『緑はよみがえる(原題:Torneranno i Prati)』もまた、イタリア戦線の塹壕戦を描いた一本。第一次大戦に志願兵として参加したエルマンノ・オルミ監督の父親の体験がベースになっている。

舞台はイタリア・アルプスのアジアーゴ高原。イタリア軍の塹壕が深い雪に埋もれている。映画はこの塹壕の内外に終始し、離れた場所へは一歩も出ない。つまりオルミ監督が父親から聞いた体験だけを映像化し、それ以外の物語のふくらみや解釈を排除しているということだろう。そのシンプルで禁欲的な姿勢がこの映画の核になっている。

オーストリア軍と対峙するイタリア軍の塹壕。ナポリから来た兵士が雪中で歌を歌うと、オーストリア軍の兵士からも称賛の声がかかる近さ。大佐(クラウディオ・サンタマリア)と中尉(アレッサンドロ・スペルドゥーティ)が本部の命令をもって塹壕にやってくる。塹壕を指揮する大尉(フランチェスコ・フォルミケッティ)は病気で、代わりに中尉が指揮を取ることになる。実情を知らない命令に従って兵士が塹壕を出るが、あっという間に狙撃される。塹壕は迫撃砲で爆撃される。結局、戦線は1メートルも動くことなく、やがて撤退命令がくる……。

戦闘場面は少なく、戦闘の合間の塹壕での日々が丹念に描かれる。最大の楽しみである家族からの手紙と写真。お世辞にもうまいとは言えそうにない食事。歌を歌うのがせめてもの慰め。インフルエンザが蔓延し、中尉以下、何人もがベッドに寝ている。そして、いつ爆撃されるかもしれない恐怖。戦争の実相というのは、ドラマチックでもなんでもなく、こういうものだろう。どこにでもいる普通の人間が敵を憎み、殺すことで普通の人間でなくなってしまう。

冒頭、歌う兵士に声をかける敵のオーストリア兵がしゃべっているのは、映画の舞台になる北東イタリアで話されている(いた)ドイツ語系少数言語チンブロ語だという。とすれば、敵と味方にわかれて、同じ言葉を話す人間同士が戦っていることになる。この映画は、そんなささやかな事柄から戦争を見ようとしている。じわっと胸に響いてくる映画。ラスト、雪のイタリア・アルプスにかかる月がなんとも美しい。


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