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February 06, 2016

『ブリッジ・オブ・スパイ』 The Standing Man

Bridge_of_spies
Bridge of Spies(viewing film)

実話に基づいた『ブリッジ・オブ・スパイ(原題:Bridge of Spies)』を見ていて、スティーブン・スピルバーグとトム・ハンクスの組み合わせはかつてのジョン・フォードとジョン・ウェインみたいだなあと思った。映画のなかで「Standing Man(字幕は「不屈の男」だったか)」というセリフが出てきたときだ。

米ソ冷戦のさなか、ソ連のスパイであるアベル(マーク・ライランス)がニューヨークで逮捕される。その直後に米軍のU2偵察機がソ連で撃墜され、パイロットが拘束される。起訴されたアベルの弁護士ドノヴァン(トム・ハンクス)は、密かに東ベルリンでソ連の当局者と2人を交換する交渉を任される。

ドノヴァンはナチス戦犯を裁くニュールンベルク裁判に関わった経歴を持つ弁護士だが、現在は保険関係の仕事をしており、事務所の都合でアベルの弁護を引き受けることになった。周囲からソ連のスパイを弁護するのかと白い目で見られ、自宅に銃弾を撃ち込まれる。それでもアベルに対して公正な態度を貫き、弁護士としてまた交渉役としての役割を果たす。そんなドノヴァンに対してアベルが言うのが「あんたはStanding Manだな」というセリフ。

Standing Manというのは、すっくと立ち尽くす男、信念を貫く男といった感じだろうか。他人に依存せず、自立して、ひとりで生きぬく男というのはアメリカ人が理想とする精神の在り方だ。ヘミングウェーの「敗れざる者(The Undefeated)」という言葉にも通ずる。

かつてのハリウッドで、そんなアメリカの独立独歩の精神を体現していたのはジョン・フォード映画のジョン・ウェインだった。『ブリッジ・オブ・スパイ』のスピルバーグとトム・ハンクスのコンビは、その21世紀版であるように見える。フォード=ウェイン組が草の根保守なのに対してスピルバーグ=ハンクス組は都会派リベラルと体質の差はあるけれど、根っこの精神は同じものだ。

ソ連のスパイを弁護するのかと詰めよる愛国者に対して法律家であるドノヴァンは、スパイであっても憲法に則って裁くのがアメリカという国だと譲らない。それを支えるのは、憲法の文言を文字どおり生きることが自分の精神だという姿勢。その不屈の生き方を、アベルはStanding Manと呼んだ。その正義派ぶりが恰好よすぎる感じもするけれど……。

映画として派手なドンパチがあるわけではないが、ソ連に加え東ドイツ当局も交えた息詰まる交渉がスリリングに描かれる。同時に惹かれたのは冷戦期の空気がよくわかること。東西ベルリンの境界に壁が築かれていく様子が同時進行で再現されているのがリアルだ。50年代のブルックリンの街も。映画としての見事さと、若干の不満(型どおりのヒューマニズムとアメリカ的正義)と、良くも悪くもスピルバーグでした。

脚本に参加しているコーエン兄弟はどういう役割だったんだろう。よく分からなかった。まさか「ソビエト社会主義共和国連邦って国名は長すぎる」とか、ジョーク担当じゃないだろうけど。


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