『神様なんかくそくらえ』 ストリート・キッズの世界
Heaven Knows What(viewing film)
『神様なんかくそくらえ(原題:Heaven Knows What)』は、ニューヨークのホームレスである少女のラブ・ストーリー。主演のアリエル・ホームズは実際にこの街でホームレスとして暮らした経験があり、彼女の手記「Mad Love in NYC」に基づいて映画がつくられた。ほかにもストリート・キッズだった少年やブルックリン生まれのラッパーが出演し、現実のストリート・キッズの世界にカメラがもぐりこんだみたいなリアリティがある。アリエルが映画にはじめて出たとは思えない存在感で素敵だ。
映画が始まってすぐ、ハーリー(アリエル・ホームズ)は同じホームレスの恋人イリヤ(ケレイブ・ランドリー・ジョーンズ)が「俺を愛してるなら手首を切ってみろ」という言葉を受けて、カミソリで手首を切る。イリヤはあわてて救急車を呼ぶが、そのまま姿をくらます。イリヤはドラッグ中毒でハーリーにドラッグを教え、彼女の持ち物を持ち去ったりする、わがままで最低の男。そんな恋人に、ハーリーはどこまでもついてゆく。
ハーリーたちが暮らしているのはアッパー・ウェストサイドのようだ。セントラク・パークの西、カメラには86丁目やアムステルダム・アベニューが映っている。セントラル・パークの大きな貯水池のあたり、起伏もあって、人目につかずホームレスがたむろす場所がたくさんあるからだろうか。実際、公園のなかでドラッグをやったり、ケンカしたりするシーンが何度も出てくる。
イリヤがいなくなって、ハーリーはドラッグの売人マイク(バディ・テュレス)の部屋にころがりこむ。彼女の携帯に、イリヤがドラッグを過剰摂取して死にそうだと電話がかかってくる。ファスト・フード店のトイレで倒れ、意識不明になっているイリヤ。再会した2人だが会えば言い争い、ハーリーの携帯をイリヤが奪って夜空に投げるとそれが光の糸を引いて星にまぎれてゆく。冨田勲のシンセサイザー曲「月の光」がかぶさる。リアルな映画のなかで唯一幻想的なシーンが素晴らしい。
ハーリーとイリヤは長距離バスに乗ってフロリダをめざす。このあたり、ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を思わせる(原題もこれを意識しているのか?)。ジャームッシュだけでなく、ニューヨークの若者が南をめざすのはアメリカの青春小説、青春映画の典型だけど、この映画もその流れのなかにある。
インディペンデントのジョシュア&サフディ兄弟の監督作品。
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