『007 スペクター』 女優2人もお楽しみ
ダニエル・クレイグになってからの007はシリーズのお約束を盛り込みながら、しっかりしたドラマをつくり、しかもアクション映画としての完成度も高い。前作『スカイフォール』は『ロシアより愛をこめて』以来の傑作だと思うけど、『007 スペクター(原題:Spectre)』はその続編。『スカイフォール』がボンドと「母」をめぐる映画だとしたら、『スペクター』は「父」をめぐる映画になっている。
『スカイフォール』の敵役ハビエル・バルデムは殺しのナンバー00をもつ元英国諜報部員。ボンドが「マム」と呼ぶジュディ・デンチのMに裏切られて彼女に復讐しようとし、ボンドが「マム」を守ろうとするのがドラマの骨格だった。今回の『スペクター』の敵役オーベルハウザー(クリストフ・ヴァルツ)はスペクターの影のボス。オーベルハウザーの父親はかつて孤児になったボンドの父親代わりを務めていた。父の愛をボンドに奪われたオーベルハウザーは父を殺し、自らは死んだと偽装して名前を変え、スペクターの首領としてボンドに復讐の機会を狙っていた。だから映画は「父」を奪われたオーベルハウザーのボンドへの復讐譚になっている。
とはいえ、そんな物語が映画の前面に出ているわけではなく、いわば隠し味。もともと荒唐無稽で古風なスパイ小説(中学時代、愛読しました)を現代にリアリティあるものにする役割を果たしている。映画としてはあくまでアクションとボンド・ガールとシリーズのお約束である車の新兵器とか、常連マネーペニーやQとの会話が楽しいエンタテインメント。
この映画では2人のボンド・ガールを楽しんだ。何を隠そうレア・セドゥとモニカ・ベルッチはご贔屓の女優なんですね。
レア・セドゥはスペクターを裏切った男の娘役。医者の白衣からドレスまで衣装をとっかえひっかえオーストリア、モロッコ、ロンドンとボンドと行動を共にする。ちょっと斜に構えて冷たい視線で男を見つめる表情が魅力的。レアを初めて見たのは『イングロリアス・バスターズ』だけど、印象に残ってない。いいなあと思ったのは『ミッドナイト・イン・パリ』でちょっと出たのと、『ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル』の女殺し屋。大胆な『アデル ブルーは熱い色』では、短髪を青く染めててまた別の魅力があった。
モニカ・ベルッチはボンドが殺したギャングの未亡人役。出番はわずかだけど、さすがの貫禄。彼女の映画を思い出すと、なんといっても『マレーナ』がよかった。去年見た『サイの季節』のような社会派映画にも出るけど、『ダニエラという女』とか『シューテム・アップ』とかB級映画の色っぽい役が素敵だ。
なんてことを考えながら女優を楽しみ、アクションと会話を楽しみ、長い映画だけどまったく飽きさせないのはさすが。この1年、『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』にしても『ミッション・インポッシブル ローグ・ネイション』にしても面白いアクション映画を見た。それらに比べたとき007シリーズの特徴はなにかといえば、しっかりしたドラマづくりはもちろんとして、もうひとつ上品さじゃないだろうか。アクションにしても会話にしてもお色気にしても、ぐりぐり尖がらず寸止めして品よく収める。やっぱりイギリス映画だなあと感ずる。
脚本では『ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999)以来の2人、ニール・パーヴィスとロバート・ウェイドがシリーズの一貫性を支え、前作から加わったジョン・ローガン(『アビエイター』『ヒューゴ』)がドラマ部分を組立ててるんだろう。やはり前作からのサム・メンデス監督と、撮影はホイテ・ヴァン・ホイテマ(『裏切りのサーカス』『インターステラー』)。これだけのスタッフを揃えれば面白い映画ができないわけながい。
Comments
こんにちは!TBをありがとうございました!
レア・セドゥーは、本当にいくつもの顔を持つ女優さんなのだと思います。
大人の男女の大人な作品でした。
Posted by: ここなつ | January 19, 2016 07:04 PM
レアは青春ものもいいし、『美女と野獣』みたいな正統派の映画にも出るし、『アデル』の大胆さには驚きました。
「大人」というのは007シリーズのキーワードかもしれないですね。ショーン・コネリーからダニエル・クレイグまで。
Posted by: 雄 | January 19, 2016 10:37 PM