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December 28, 2015

『ハッピーアワー』 新しい映画

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Happy Hour(vewing film)

『ハッピーアワー』は上映時間5時間17分。眠気覚ましのガムなど用意して行ったんだけど一度も口に入れることはなかった。ドラマチックな展開があるわけでもない作品ながら、まったく飽きずに画面に引き込まれた。

いまインディーズ映画はいろんな形態があるけど、この映画の発信源は自治体。神戸市が主宰するアーティスト・イン・レジデンスに濱口竜介監督が招聘され、即興演技ワークショップを開き神戸を舞台にした映画づくりを行うことになった。そのワークショップに参加した17人の市民をキャストに、濱口監督と野原位、高橋知由のユニットが脚本を書いて実現した作品。クラウド・ファンディングで資金を集めたりもしている。

映画は3部に分かれていて、カメラは30代の女性4人グループの日常を追う。

バツイチのベテラン看護師で、仕事一筋のあかり(田中幸恵)。夫は公務員、中学生の息子をもつ専業主婦の桜子(菊池葉月)。夫は編集者、アートセンター(本作の製作母体となったワークショップがモデルみたい)に勤めるキャリアウーマンの芙美(三原麻衣子)。夫との離婚裁判が進行中で、弁当屋で働く純(川村りら)。

仲良しの4人は芙美が企画したワークショップに参加する。その打上げで純が離婚裁判をしていることを告白し、あかりがそれを知らされていなかったとに怒ったことから、4人の間に微妙な溝が生まれる。4人それぞれに小さな出来事が起きる。あかりは、患者の子供の片親である男と親子デートして結婚に心が動く。桜子は、息子がガールフレンドを妊娠させてしまう。芙美は、夫が担当する若い女性作家が夫に心を寄せているらしいのを複雑な目で見ている。裁判では純の不倫が明らかになるが、離婚する気のない夫は純を愛していると彼女に迫る。

映画の冒頭近くと終わり近く、長時間のワークショップのシーンが2度出てくる。どちらも据えっぱなしのカメラでドキュメンタリーを撮っている感じ(濱口監督はドキュメンタリー作家でもある)。4人の日常を追う本筋からは、手法もやや異質で長時間のこのワークショップのシーンには、ふたつの要素がありそうだ。

ひとつは、この映画の出演者が濱口監督の即興演技ワークショップの参加者であるところから、そのワークショップの延長のような設定をすることで演技未経験の出演者たちから自然な演技を引き出そうとしたこと。もうひとつは、4人の日常的な物語に対して、いわばメタレベルでテーマを暗示していること。

最初のワークショップは、講師が重心について語る。椅子を斜めにし1点を支えに立ててみせる。物体の重心と、物体を貫く中心線を意識させる。次に何人かが背を合わせて座り、集団の重心を維持しながら全員で立ち上がる。1人と集団、それぞれに重心がある。重心はちょっとした動きでずれればすぐに倒れてしまう。それが主人公の4人に重なる。

2度目のワークショップでは、若い女性作家が温泉をテーマにした短編小説を朗読する。小説は作中の主人公が温泉につかりながらある男に好意を寄せているといった内容(言葉の力が弱いせいで、ここは唯一長すぎると感じた)。芙美は、それが作者自身と芙美の夫である編集者の男に重なっていることを感じている。1度目のワークショップの講師である男が、このシーンでは芙美とあかりを誘惑する役割で登場する。

4人の女性がそれぞれに区切りをつけるけれど、ドラマチックな起承転結があるわけでもない。数カ月という時間を、ドラマとして濃縮させずただぶつ切りにして提示してみせたといった感じ。この時間感覚は、ホウ・シャオシェンの映画、例えば『珈琲時光』なんかに近い。現実の時間の流れに近いその感覚から、映画を見ていて、自分が知っている30代の女性たちもきっとこんな問題を抱えながら生きているんだろうなと感じさせる。その自然さ、みずみずしさで4人はロカルノ映画祭で主演女優賞を受賞した。

その舞台となる神戸の街も、観光名所はまったく映らないけれど、神戸大震災後の神戸の街をこんなに美しく切り取った映画はないんじゃないかな。

映画のつくり方について、内容や手法について、出演者について、あらゆる意味で新鮮な、今までに見たことのない映画だった。

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