映画・2015年の10本
◎『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』
今年は順番をつけないけど、1本を選べと言われたら文句なくこれ。CGではなくスタント200人の身体を張った壮絶アクション。実際につくられた怪奇な改造車の群れ。トム・ハーディとシャーリーズ・セロンの艶っぽさがたまらない。これこそ映画を見る快楽。21世紀最高のアクション映画でしょう。
◎『裁かれるは善人のみ』
原題は「リヴァイアサン」。北極圏のすがれた海岸町で、男と女が愛に惑い権力者に踏みつぶされる。その隔絶した風景と人間ドラマが、国家が個人を押しつぶすホッブズの怪物を、さらには「ヨブ記」の怪物をと、ふたつのリヴァイアサンを思い起こさせる。象徴性に富み、タルコフスキー以来のロシア映画の伝統を継ぐ作品でした。
◎『光のノスタルジア』『真珠のボタン』
ここ数年、秀作ドキュメンタリーの劇場公開が増えました。これもその一つ。チリのアタカマ砂漠にある天文台が捉える宇宙の姿と、ピノチェト政権が虐殺した人々の遺骨を砂漠に探す遺族たち。その天と地の対比が無言のうちに人間のおろかさ愛しさを映し出す。
◎『ハッピーアワー』
神戸に生きる4人の30代女性の日常がみずみずしい。上映時間5時間17分。主演の4人は濱口竜介監督のワークショップに参加した演技未経験の市民。製作には自治体が関与し、資金集めにクラウド・ファンディング。時間を濃縮する映画的手法を避け、ドキュメンタリーのような時間感覚。さまざまな新しい試みが新鮮な映画でした。
◎『マップ・トゥ・ザ・スターズ』
ハリウッドを舞台に、映画スターの母と娘、姉と弟がシェークスピア劇のように破滅してゆく。ハリウッド・バビロン炎上を幻視するような作品でした。アトム・エゴヤン、ドゥニ・ヴィルヌーヴとカナダ系監督の映画が面白いけど、本家クローネンバーグのクールな狂気は突出してる。
◎『海街diary』
同じ女性4人を主人公に、実験的な『ハッピーアワー』に比べると、是枝裕和監督の成熟が光ります。長澤まさみ、夏帆ら女優の魅力を引き出す演出力、息をのむショット、希望を感じさせるエンディング。小津、成瀬、木下といった日本映画の家庭劇を現代に再生させた、日本映画のど真ん中にある作品でしょう。
◎『薄氷の殺人』
ハルビンの連続殺人事件を追う中国製フィルム・ノワール。自堕落な元刑事と謎めいた薄幸の美女。ラスト、白昼に打ち上げられる花火が記憶に残ります。中国社会の成熟、それに比例した闇の増大、美意識の深化といった条件がこの大陸製ノワールを生んだのでしょう。
◎『海にかかる霧』
中国系朝鮮族の密航者を乗せた漁船の窒息死事故と遭難をダイナミックに描く韓国映画。韓流スターと演技派を配し、古風だけど重厚な人間ドラマに仕上がっています。中国系朝鮮族が大量に流入している現実を背景に骨太なエンタテインメントをつくりあげる、韓国映画の実力を思い知らされます。
◎『さよなら、人類』
同じ北欧のアキ・カウリスマキのようなユーモアに貫かれながら、幻想的だったり、いきなり歴史の残酷さを露出させたり、過去現在の時間が入り乱れたり、不思議な感触のスウェーデン映画。絵画が動き出したような画面。全編スタジオ撮影した演劇のような空間。これまで見たどんな映画にも似てない作品でした。
◎『味園ユニバース』
大阪は下町の祭に関ジャニ∞の渋谷すばる扮する記憶喪失の男が乱入し、吼えるように歌う。そんな野良犬のような男を二階堂ふみ演ずる女が飼うことになる。山下敦弘監督の音楽映画は『リンダ・リンダ・リンダ』もよかったけど、ここでも快調。スタッフ・キャストに大阪組が多く、街への愛にあふれてます。
今年は見ごたえのある映画が多かったように思います。他に10本に入れようかと迷ったのは、邦画で『恋人たち』『岸辺の旅』『さよなら歌舞伎町』『野火』、アジア映画で『黒衣の刺客』『私の少女』、洋画で『ナイトクローラー』『バードマン』『アメリカン・スナイパー』『夏をゆく人々』といったところ。
今年もおつきあいいただいてありがとうございました。良いお年をお迎えください。
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