『ブラックハット』の米中カップル
『ブラックハット(原題:Blackhat)』はマイケル・マン監督の久しぶりの新作。楽しみに見にいったけれど、期待に反してアクションは平凡、なにより登場人物の造形が浅いのが不満だった。アクション映画は人間をじっくり描くことを狙いにしていないけど、例えば『コラテラル』でマン監督自身が白昼の都会を横切るコヨーテのワンショットで主人公の孤独を浮き彫りにしたように、一言のセリフ、彫りの深いワンカットでその人物が抱える思いや陰影は描けるものなのに。
この映画で面白いのは、主人公の捜査官が米中コンビになっているという設定だろうか。
正体不明のハッカー(ブラックハット)がサイバーテロを仕掛けて香港の原発をメルトダウンさせ、アメリカの穀物先物市場を混乱に陥れる。中国のサイバー捜査官ダーワイ(ワン・ホーソン)、リエン(タン・ウェイ)の兄妹とFBIのキャロル(ヴィオラ・デイヴィス)が合同捜査チームを組む。ダーワイは、アメリカ留学時の大学のルームメイトでハッキングの罪で獄中にいるニコラス(クリム・ヘイワース)の協力が必要だとキャロルを説得して彼を獄から解放する。ニコラスは天才プログラマーで、ブラックハットが使った遠隔操作ウイルスはニコラスがつくったものを応用していた……。
4人の捜査チームが香港、マレーシア、ジャカルタとアジアを舞台にブラックハットを追う。サイバーテロについては、回路基板を光が走る映像で処理されてて、それなりに正確に再現されてるようだけど、映像として特に驚くようなものではない。後はごく平凡なドンパチになる。
獄から出たニコラスと中国の国家公務員である捜査官のリエンがあっという間に恋人同士になってしまうのがおかしい。その瞬間から、リエンはニコラスに従うただの恋する女性になってしまう。『ラスト・コーション』で大胆なシーンを演じたタン・ウェイは、どう見てもITに精通した捜査官に見えないし、それを言えばクリム・ヘイワースも天才プログラマーに見えない。合同捜査チームが活動している現場の一部屋でニコラスとリエンがベッドに入っていても、誰も何も言わない。ただヒーローとヒロインをくっつけるだけのご都合主義。
この映画が中国で公開されたら、戦後日本を舞台にしたハリウッド製アクション映画『竹の家』のステレオタイプな日本女性(シャーリー山口)の描き方が「国辱」と言われたように、中国人のナショナリズムを刺激して国辱(!)とでも非難されるのだろうか。
つまんない映画のことは書かずにスルーしてしまうことが多いんだけど、このところ忙しくてほかの映画を見られない。せめての見どころといえば、香港やジャカルタの夜景にマイケル・マンらしいスタイリッシュな映像が見られるあたりか。最後のオチは、こうなるならこのお二人さん、もっとじっくり描きこんでほしかったなあ。
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