『龍三と七人の子分たち』 いい感じにゆるい
Ryūzō and The Seven Henchmen(viewing film)
これは役者を楽しむ映画だね。元暴力団組長の龍三に藤竜也、七人の子分たちに近藤正臣、中尾彬、品川徹、樋浦勉、伊藤幸純、吉澤健、小野寺昭の面々。平均年齢72歳のジジイたちが心地よさそうに演じてる。
特に若い頃、映画や舞台で見た脇役たちが懐かしい。カミソリの使い手で今は老人ホームでおむつを履いてる吉澤健。日活ロマン・ポルノや若松孝二の映画によく出てた。学生活動家の役がはまっていた記憶がある。病院のベッドの上にスティーブ・マックイーン『ブリット』のポスターを貼る早撃ちマック。今は手が震えてあぶなっかしいガンマンを演ずる品川徹は転形劇場で見たことがある。吉澤健は状況劇場にいたから舞台も見てるはずだけど記憶にない。
組長になれなかったコンプレックスを抱えて親分に尽す若頭の近藤正臣もかつての二枚目から転身、ジジイのヤクザ・ファッションが似合ってる。中尾彬は一見紳士ふうだが情けない寸借詐欺。でも藤竜也だけはブリーフ一丁に女ものの下着をつけ、シャワーキャップをかぶっても、なお恰好いい。その恰好よさがまた可笑しみになる。
息子の家に同居して邪魔者扱いされている元組長の龍三がオレオレ詐欺に遭いそうになり、元の子分たちを集めて、詐欺を会社組織でビジネスにしている元暴走族に一矢酬いるお話。北野武監督というよりビートたけし演出のゆる~いコメディだ。鈴木慶一の音楽も、いい感じ。
お楽しみはいろいろある。
親分子分たちが若い頃に切った張ったの回想シーンは傷だらけのモノクロ画面になる。昔のやくざ映画の味わい。指が2本ない藤竜也が競馬場で両手を広げ遠くから5-5を買えと指示したのに中尾彬が5-3を買ってしまうギャク。藤竜也と近藤正臣が、蕎麦屋で客が何を注文するか千円札で賭けを始めるかけあいの呼吸。
藤竜也たちが路線バスを乗っ取り狭い商店街を突っ走って屋台や品物を次々なぎ倒す爽快さ(追われるメルセデスが追う路線バスを振り切れないわけがないけど、ヤボは言いっこなしで)。死体になって経帷子に三角頭巾の中尾彬を先頭に霊柩車で殴り込み、死体を弾除けに使うわ味方にもぼこぼこにされるわのビートたけしならではのギャグ。
『アウトレイジ』『アウトレイジ・ビヨンド』と面白いアクション映画でかつての切れ味を取り戻した北野武監督が、暴力団同士の抗争という似た素材をジジイという一点をテコにゆるいコメディに仕立て上げた。ジジイの一人として拍手を。
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