『そこのみにて光輝く』
The Light Shines Only There(viewing film)
去年、評判になった作品をDVDで。『海炭市叙景』につづく函館出身の作家・佐藤泰志原作、函館発信映画の第2弾。
懐かしさを感ずる映画だなあ、というのが見終わっての感想だった。懐かしいといっても、1950~60年代の日本映画黄金時代とは肌合いが違う。5社体制が崩れつつあった1970年代、具体的な名前を挙げれば神代辰巳の文芸映画に近い感触。ロケ中心(本作は全編ロケ)のリアルな空気感、手持ちカメラを多用し光と影のくっきりした映像、長回し、ときたま入るだけなのに効果的な音楽、あてどない浮遊感、細かいところでは自転車への偏愛といったあたりも似ている。
神代は物語より現場の即興を大事にした印象があるけれど、こちらは原作がそうなのだろう、古めかしいくらいに物語を語る。
岩石採掘現場での事故のトラウマから、仕事もせずぶらぶらしている男(綾野剛)。寝たきりの父がいて、体を売って家を支える女(池脇千鶴)。函館を舞台にそんな男と女の不器用な愛が描かれる。掘立小屋のような女の家と、男の狭いアパート(ここでのラブシーンは官能的)、夜の歓楽街、函館山を望む海岸のシーンが印象に残る。ラストショットも、絶望的な環境のなかでなお一筋の人間への信頼を失わないことを暗示して素晴らしい。
呉美保監督の演出はけれん味のない正統派。これからが楽しみだ。
Comments
遅くなりましたー。忙しすぎてなかなかご訪問もままならずで。
結局これを昨年のmyランク1位にしてしまいました。
映画としてはたぶん『イーダ』の方が完成度は高かったと思うんですけどね。
でもこちらの泥臭さが気に入ってしまいまして。
こういう世界を上手く描くのって難しいと思うんです。俳優陣も圧巻でした。
Posted by: rose_chocolat | March 12, 2015 09:41 AM
roseさんがこれを1位にしていたので、ぜひ見なければと……。泥臭くて古風だけど正統派。こういう映画は貴重ですね。池脇千鶴はroseさんも書かれてたけど肩や背中のお肉の感じが絶品でした。
Posted by: 雄 | March 12, 2015 01:16 PM