『女神は二度微笑む』 コルカタの雑踏
コルカタに行ったことがない。人口450万、近郊の都市圏まで入れれば1400万人の大都会。この街の映像を最初に見たのは1970年代に公開されたサタジット・レイの映画だったろうか。
『女神は二度微笑む(原題:Kahaani)』はインド映画には珍しいミステリーだけど、主役は紛れもなくコルカタの街だ。人また人の街路。ドーム屋根のコロニアル建築。路面電車。朽ちはじめた下町。極彩色の市場。むっとする空気感。雨季の驟雨。そしてラストシーン、ヒンドゥの「戦いの女神」ドゥルガーを乗せた山車と、それを取り巻く赤白のサリーの女性の群れ。
手持ちカメラが雑踏のなかを動き回る。右に左に振れるカメラはなんだか1970年代ふうであり、いささか疲れもするけど、それだけに見ている自分もこの人の渦のなかにいるんだという感覚にもなる。その楽しさが、僕にとってはこの映画のいちばんの見どころだった。
もちろんミステリーとしても凝っている。ロンドンからコルカタへ、失踪した夫を探しに妊婦のヴィディヤ(ヴィディヤー・バーラン)がやってくる。警官のラナ(パラムブラト・チャテルジー)が彼女に協力することになる。夫が滞在していたはずのホテルに行っても覚えがないと言われ、夫が勤めていたはずのIT企業にもそんな事実はないと言われる。が、その企業には夫によく似た男が存在した……。
やがて情報機関が出てきたり、殺し屋が登場したり、地下鉄サリン事件をモデルにしたようなテロ事件にからむ国家的な陰謀であることが分かってくる。夫はテロ犯なのか、テロ犯に間違われたのか。映画はサービス満点。臨月近くよたよたと歩くヴィディヤと、それを助けるお人好しのラナはいいコンビ。ヴィディヤにラナは好意を抱いているらしい。そんなシーンでは、それらしい音楽が高まる。普段は無能な会社員を装う殺し屋は禿隠しの髪型が笑いを誘う。ヴィディヤと殺し屋の地下鉄ホーム上のやりとりも思わせぶり。「戦いの女神」とヒロインが重なる(ポスターもそれを暗示してますね)最後のWどんでん返しまで飽きさせない。
ハリウッド映画を見慣れた目には泥臭い印象もあるけど、あれもこれも過剰なのがインド映画のいいとこなんだろう。もっとも、インド映画といってもこれは東海岸のベンガル語映画で、西海岸のヒンドゥー語で歌と踊りのボリウッド映画とは別もの。ハリウッドでリメイクが決まっているそうだが、どんなものになるのか。コルカタ生まれ英国育ちのスジョイ・ゴーシュ監督。それにしても、インド映画の女優はどうしてこんなに美女ばかりなんだろう。
Comments
いろいろ混ぜてて収集つかなくなりそうなんだけど、でも結構うまくまとまってたように思うんですよね。
オチの見せ方もよかったと思いました。
Posted by: rose_chocolat | April 12, 2015 10:16 PM
サービス精神たっぷりの特盛でした。音楽の使い方が過剰なのもインド映画らしいかも。でもたっぷり楽しめましたね。歌と踊りばかりじゃなく、こういう映画もどんどん公開されるといいのに。
Posted by: 雄 | April 14, 2015 03:39 PM