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March 22, 2015

『娚の一生』の足指キス

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廣木隆一監督はこのところすっかり売れっ子になった。今年に入ってからも『さよなら歌舞伎町』と『娚(おとこ)の一生』が公開され、『ストロボエッジ』も近々公開される。『余命1ヶ月の花嫁』がヒットして恋愛映画上手という評価が高まったせいだろうか、『雷桜』『きいろいゾウ』『100回泣くこと』といった青少年向けのラブストーリーがつづいている(『雷桜』しか見てないけど、この時代劇は失敗作だった)。

廣木監督はもともとラブストーリーというか男と女の話が得意。もっとも青少年向けというより大人のエロスに満ちたものが多く、こちらの系列には題材も手法も作家的な志向が匂っている。

桐野夏生原作の『天使に見捨てられた夜』、団鬼六原作の『不貞の季節』、赤坂真理原作の『ヴァイブレータ』、絲山秋子原作の『やわらかい生活』(この寺島しのぶがいい)、馳星周原作の『M』、中上健次原作の『軽蔑』、オリジナルの『RIVER』といったところで、僕はこちらの廣木隆一が好きだ。『さよなら歌舞伎町』もこの系統に属する。

作家的といっても、廣木隆一の映画では学生映画出身監督がよくやるこれ見よがしなスタイルの実験はない。映画的な官能の背後に、そっと作家的な手法が埋めこまれている。例えば長回しもやるけど、『さよなら歌舞伎町』なんか廣木の撮るイ・ウンウがあまりに美しいので見惚れ、後で、ずいぶん長回しだったなと気づくことになる。『娚の一生』でも榮倉奈々がカメラを見つめるショットがさりげなく挿入されてドキッとする。

『娚の一生』もラブストーリーで、青少年向けエンタテインメントと作家的な大人映画の中間に当たるだろうか。原作は僕は読んでないけど西炯子の人気コミック。アラサー女と50代男の恋。男は女の祖母の恋人という、ちょっと無理じゃないの的な設定を観客にどう納得させるかが監督の腕の見せどころだ。

祖母の葬式で故郷に帰ったつぐみ(榮倉奈々)は、東京での仕事と不倫の恋に疲れ、空き家になった家で祖母が残した染色の仕事をやろうとしている。翌朝、つぐみは離れに見知らぬ男が泊まっているのに出くわす。海江田(豊川悦司)と名乗る大学教授で、祖母から離れの鍵をもらっていた。祖母が大学で染色を教えていたときの教え子で、どうやら祖母の若い恋人だったらしく、今も独身。つぐみと海江田の奇妙な同居生活が始まる。

お話はこういう設定の定石どおり。食事をつくってくれとか、パンツを黙って洗濯に出すとか、中年男の図々しさにつぐみはいちいち反発する。法事の席でつぐみの親類に向かって海江田は「つぐみと暮らしている」と、さもカップルであるかのような発言をする。でもやがて海江田の強引さの背後にあるやさしさに触れ……といった展開。

ポスターにもある、海江田がつぐみの足指を舐めるシーンは原作でも話題になったらしい。ここも長回しで、窓から射しこむ外光の明るい空気感が印象的。ここから(別の映画なら廣木好みだろう)谷崎潤一郎ふうなフェチにはまったく行かず、美しくまとめられているのがこの映画(原作)のありようを示している。

廣木監督が女優の魅力を引き出すのがうまいのには、いつもながら感心する。だからこそ若手女優を起用したラブストーリーに声がかかるんだろう。『余命1ヶ月の花嫁』で組んだ榮倉奈々が、ざんばら髪の日常生活のなかで見せる大人の魅力が素敵だ。豊川悦司も『やわらかい生活』以来で、こちらも渋い。ちょっと出てくる安藤サクラもさすが。心地よく楽しめる映画でした。

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