『イミテーション・ゲーム』 天才の気弱な微笑
The Imitation Game(viewing film)
『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密(原題:Imitation Game)』の主人公はアラン・チューリング。第二次世界大戦で解読不可能と言われたドイツ軍の暗号システム・エニグマを解読し、コンピュータと人工知能の基礎を築いたイギリスの数学者だ。
連合国の勝利に貢献し、コンピュータの原型をつくったということは、僕らが生きてきた20世紀後半の世界の構造に大きくかかわっている人物。にもかかわらず戦争中の業績は秘密とされ、さらに同性愛者として告発されたために歴史から抹殺されてきた。復権したのは21世紀に入ってから。
映画はアランの少年時代から失意の時代までを描く。
いきなりアラン(ベネディクト・カンバーバッチ)の天才ゆえのふるまいが出てくる。ドイツ軍の暗号を解くため政府の極秘プロジェクトで6人の優秀な人間が集められるが、アランは2人は不要と言い放って追放する。残った4人とも協調せず、自分ひとりで解読マシーンの開発に取り組む。
そんなアランの独善が変わるのは、チームにクロスワード・パズルの達人ジョーン(キーラ・ナイトレイ)が加わってから。彼女のアドバイスでチームに差し入れをもってきて、「ジョーンにそうするよう言われたから」と不器用なコメントをする。そんな天才ゆえ他人が目に入らない孤高と、アランが時折見せる気弱な微笑の間の激しい落差をカンバーバッチが好演してる。
回想シーンでは気弱な微笑の理由が明かされる。アランは、彼を庇護し「君に向いてると思う」と暗号の本をくれた同級生のクリストファーに愛情を抱く。クリストファーは病死し、アランは開発している解読マシーンにクリストファーと名前をつけて呼びかける。アランがゲイであるあたりの描写は抑制されている。それはそれで好ましいけど、ゲイでありながら同時に異性のジョーンに惹かれ婚約するあたりのアランの葛藤が描きこまれれば、天才の悲しみがもっと引き立ったかも。
タイトルのイミテーション・ゲームは、人工知能に関してチューリングが考案したものを指す。素人理解で言うと、男と女がそれぞれに定められた質問に回答し、判定者は回答者が男なのか女なのかを判別する。男は女を装い、女は男を装って、判定者をまどわせるゲーム。この回答者を機械にやらせたらどうなるか、というのが人工知能開発の基礎となった(らしい)。
映画の最後、同性愛を追及する刑事とアランの間で、秘密を告白したアランが「さて私は機械か、人間か」と問うシーンがある。人間の底知れぬ複雑さと、その複雑さを再現しようとしたマシーン。このときアラン・チューリングは、知性をもったマシーンへの自信と同時に、ひょっとしたら自分はイミテーション・ゲームをするマシーンのような存在かもしれないという、自らが抱える闇に向き合っていたのだろうか。
はじめレオナルド・ディカプリオがこの役に興味を示したらしい。でもディカプリオではこの陰影は出ないんじゃないかな。カンバーバッチでこそ成り立ってる映画だった。監督はノルウェー出身のモルテン・ティルドゥム。
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