奈良原「王国」とフジタの戦争画
元同僚と昼食を食べて、竹橋・近代美術館の奈良原一高「王国」展へ行く。写真史に残る名作。写真集では何度も見ているが、プリントで全体像を見るのははじめて。さすがにすごい完成度。
同時に開かれている所蔵作品展「MOMATコレクション」にはデビュー作「人間の土地」や「ブロードウェイ」も展示されていた。川田喜久治「地図」も。
「MOMATコレクション」で嬉しかったのは藤田嗣治「哈爾哈(ハルハ)河畔之戦闘」を見られたこと。近美が以前やった「藤田嗣治展」には出品されていなかった。
ノモンハン事件を題材にした戦争画。横長の大きなカンバスいっぱいに大草原と青空。動けなくなったソ連の戦車に日本軍の歩兵が襲いかかる図。藤田の戦争画の代表作「アッツ島玉砕」や「サイパン島同胞臣節を全うす」(今回も出品されている)が暗い画面に鎮魂の気配が満ち満ちているのに比べると、戦闘場面にもかかわらず牧歌的な感じさえ漂っている。
ノモンハンの戦闘は、この絵とはまったく違う惨憺たるものだった。「戦車ではなくオモチャ」(司馬遼太郎)のような日本の戦車はソ連の戦車にまったく歯が立たなかった。日本軍は歩兵が火炎瓶を戦車の下に投げ込んで炎上させる捨て身の戦術を取ったが、「何千という死体、死馬の山、無数の砲、自動車」(『ジューコフ元帥回想録』)を残して撤退した。藤田の絵は、この捨て身の作戦を勝利として描いたものだろう。
解説によると、藤田にはこれとは別にもう一枚のノモンハンを描いた作品があったとの証言がある。そちらは、この絵とは逆に死体累々だったという。今回の展示が表ノモンハンだとすれば、失われた裏ノモンハンを見てみたかった。藤田の戦争画には、考える種がたくさんある。
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